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「釣り餌レストラン」第10回のメニューはカニ。ズワイガニに毛ガニにタラバガニ、モクズガニにワタリガニとわれわれ人間も大好きなカニは、その種類は違えど当然魚たちの大好物でもあるのだ。いまでこそカニをエサにする釣りは少なくなったが、かつてカニはエビ類、貝類と肩を並べる主要エサだった。今回は往事の釣りをしのびつつカニエサの魅力に迫ってみたい。
かつて磯釣りはカニエサ天国だった!?
昭和46年に発行された『磯釣り全』(藤沢淳一郎著:東京書店)を開いてみると、イシダイ釣りのエサの項にはサザエ、ヤドカリ、ウニに次いで以下の記述がある。
『田ガニ、ベンケイガニ、赤ガニ、イソガニ、ボガニなど、いろんな種類があり、いずれも好餌です。ボガニは干潮線の磯辺にいる脚の長い、こうらのしっかりしたもので……』
いろいろ調べてみると田ガニは田んぼにいるカニすなわちサワガニのことのようだ。ベンケイガニはそのまま標準和名のベンケイガニで、インド太平洋沿岸の熱帯・温帯域に広く分布し、海岸の塩性湿地や川辺に生息するカニのことだろう。イソガニも標準和名で日本の沿岸部でよく見かけるカニだ。分からないのが赤ガニとボガニで、写真等の掲載がないので、どんなカニかさっぱり分からない。しかしイシダイ釣りで、いろいろなカニが使われていたのは事実だ。
イガミ(ブダイ)釣りのエサは海藻のホンダワラというイメージが強いが、まだ水温が高い初秋は本来カニエサで釣るのが定番だ。ただ近年は初秋からホンダワラで釣ることも多いようで、カニエサでのイガミ釣りは少数派になったのかもしれない。
九州、特に熊本方面ではサバガニと呼ばれる変わったカニでグレ、チヌ、アイゴなどを磯からのフカセ釣りでねらう。サバガニは標準和名オヨギピンノというカクレガニ科のカニのことで、ある時期生殖行動のためと考えられているが、大集団で群泳するのだ。これにグレなど磯の魚たちが狂喜乱舞する。このオヨギピンノ、瀬戸内海でも群泳が見られるという。
落とし込み釣りなど、おチヌ様御用達!
カニエサといえば、やはりチヌ釣りだ。特に落とし込み釣り(ヘチ釣り、前打ち)ではカニの出番は多い。よく使用されるのはクモガニ(標準和名コメツキガニ)、岩ガニ(標準和名イソガニ、ヒライソガニなど)、タンクガニ(標準和名スベスベオウギガニ)だろう。イカダやカセからのかかり釣りでも以前は使用されることがあったが、近年は少なくなったように思う。
クモガニは関西で落とし込みブームが起こった30数年前、最初に定番となったエサで、当時から多くのエサ店で購入することができた。内湾や干潟の穴の中に住み干潮時に巣穴から出て活動する。カニ類としては殻が軟らかくエサ取りに弱い。逆にそれだけ食い込みはよいということになる。
岩ガニは岩場やゴロタ石などが多い海岸の潮間帯・潮下帯に住むカニで、落とし込みファンには自分で採取する人も多い。近年、落とし込みでカニといえば岩ガニという定番エサだ。もっとも殻が硬いタンクガニはエサ持ち抜群。左右で爪の大きさが異なり、大きな爪だけをハリに刺してエサにすることもある。
ハリの刺し方は垂直護岸などヘチをねらう場合は脚の付け根からハリを入れてお尻に抜く横掛け、前打ちで海底中心にねらう場合の尻掛けなどが代表的。横掛けはカニが護岸のヘチを落下する様子、尻掛けはカニが海底で自然に歩く様子を演出するのがねらい。
カニエサで釣れるのはチヌだけではない。以前、クモガニの落とし込みでアコウをヒットさせたこともあるしマダイもカニが大好きだ。そういえばマダコの好物もカニだ。現在ではタコ餌木が釣りの中心になったが伝統的なエサ巻きテンヤでは大きなカニを縛り付けることも多かった。カニを模したタコ用の擬似餌もあるほどだ。
とにかく多くの魚たちにとってカニは魅惑のグルメなのである。