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「釣餌レストラン」第9回のメニューも引き続き、おチヌ様御用達! 二枚貝グルメ。貝類系のエサ第2回は防波堤の落とし込み釣りでは欠かせないエサになったムラサキイガイ。殻が付いたまま使用することがほとんどで、エサ取りにやられにくい鉄板メニューだ。
昭和初期に地中海から日本へ
ご存じのとおりムラサキイガイは昭和初期に船底に付着するなどしてヨーロッパから日本に運ばれ全国に分布域を広げた外来種である。イタリアやスペイン、フランスなど西欧料理の食材として用いられるムール貝は同種とのことである。
防波堤の壁面にびっしり群生しているのを見かけるが、そのとおりムラサキイガイは外洋には少なく内湾などの穏やかな海の潮間帯(水深1~5m以内)でないと育たないという。貝殻の大きさは最大10cm程度で左右にやや平たく偏った水滴型。またムラサキイガイよりも遅れて全国に分布したミドリイガイもインド洋、西大西洋、ペルシャ湾を原産地とする外来種である。ともに落とし込み釣りのエサとして現在ではポピュラーな存在だ。
在来のイガイとはまったくの別種
一方で在来種のイガイもいる。カラス貝、瀬戸貝、シウリ貝という地方名は本来、標準和名イガイのことでムラサキイガイやミドリイガイとは別種である。殻は10~15cmと大きくなりムラサキイガイより分厚く丸い特徴がある。生息域もムラサキイガイとは違い水深5~15mの海底。したがって在来種のイガイを防波堤などで見かけることはまずない。
現在では少なくなったが四国西南部の磯でイシダイ釣りをする場合、地元・四国、特に香川や愛媛の釣り人の主要エサはカラス貝だった。ムラサキイガイもカラス貝と呼ばれるため、てっきり同じ貝だと思っていたが、実はイガイだったようである。ふと思い出したのが、そんな四国の釣り人たちが釣行前日にエサを調達する行動。深い海底からエサを採取し1個1個きれいなムキ身にしてサシエ用として釣り場に持参するという話だ。殻が大きくても10cm程度のムラサキイガイのムキ身など小さすぎてサシエになりにくいが15cmにもなるイガイだから大丈夫なのだ。瀬戸貝という地方名からも分かるとおり瀬戸内海の海底にも多く棲息するのがイガイなのである。
落とし込み釣りでのハリの刺し方
ということでチヌの落とし込みで使用されるのは防波堤壁面に付着し採取しやすいムラサキイガイとミドリイガイである。多くの釣り人がイガイと呼ぶのはムラサキイガイでミドリイガイは、そのままミドリイガイもしくはミドリと呼ばれることが多い。
ハリへのセット方法はアケミ貝の丸貝同様、殻付きのまま。ハリを2枚の貝にハリを挟み込むようにセットする。主に使用するのは貝殻長で1、2cmのものだが、ときには数cmという大型を使うことも。貝の口のほうにからハリ先を入れる方法が一般的でチヌの口へのハリ掛かりがよい。貝殻の蝶番を上にして貝殻の横に挟み込む方法や蝶番をまたぐように掛ける方法もある。ハリからは外れにくいがハリ掛かり率はよくない。またムラサキイガイの成長期、数mmサイズの稚貝を群生状態のままハリにセットする「稚貝のダンゴ」と呼ばれている方法も現在ではポピュラーだ。
ムラサキイガイは本来、日本に分布してはいけない貝である。沿岸の付着生物であるフジツボやカキなどと競合することで生態系に影響を及ぼし、また真夏の高水温期に死滅して海底に落ちた個体により水質汚染を引き起こす問題も指摘されている。しかし一方で赤潮の原因となる植物性プランクトンを摂食することから、その海水浄化能力は高く評価される。遙か遠い地中海に思いを馳せつつチヌの好餌としての恩恵を享受しよう。
(次回のお品書きは、またまたおチヌ様御用達! カニエサの予定です)