釣魚御用達! 「釣り餌レストラン」 All About Fishing Bait 【第3回のお品書き】甲殻類系のエサ その1
定番中のド定番!
香りで誘って味で酔わせる看板メニュー!

「釣餌レストラン」第3回のおすすめメニューは嫌いな魚はまずいない? オキアミとアミエビだ。われわれが焼き肉の香ばしいニオイについ足を止め、思わず口の中に唾液があふれ出すように、魚たちもきっとそう! たぶん! いや絶対!? というわけで、ほとんどの方がご存じの“いまさら”メニュー。であるだけに、今回はシェフ(筆者)の個人的な想い出、エピソードを中心にお品書きへの思い入れを綴ってみた。

「オキアミ」千客万来!

いきなり40年以上も前の話で恐縮だが、当時中~高校生だったシェフは春夏冬の各休みに愛媛県は宇和海に浮かぶ御五神(おいつかみじま)の磯へグレ釣りに行くのが楽しみだった。父親と2人で前日の夕方に自宅を出て当時の国鉄、連絡船、路線バスを乗り継ぎ、現地の民宿も兼ねた渡船店に到着するのは翌日のお昼前だった。

その日もすぐさま磯へ渡るのだが、そのときに渡船店が用意してくれるエサは板状に冷凍された湖産エビだった。いわゆる琵琶湖産のスジエビで、関西でいうシラサエビのことだ。いまでは見かけることがなくなった帆布(?)製のオレンジ色のバッカンに、たぶん3kgほどを解凍しながらサシエにもマキエにも使用した。足下の磯際に手でパラリと撒いて、ハリには尾羽根を切って通し刺し。これでグレでもイサギでもアイゴでも、なんでもかんでもよく釣れた時代だった。

グレ
40年以上前、磯でグレをねらうエサは湖産エビだった。エサ取りも少なく、よく釣れた時代だった

ところがあるとき、同じ渡船店で手渡されるエサがオキアミに替わったのだ。「へぇ~、これがオキアミか!」と雑誌で読んだ知識だけはあったものの実際に使うのは、その日が初めて。とはいっても見た目は「エビみたい」なので湖産エビと同じ感覚で使ってみると……。「何だこれ? 軟らかくてハリからすぐ外れてしまうやん」とか「あっという間にエサ取られてしまう。頼りないなあ」とか「えっ? 黒くなってきたぞ。やばくない?」などなど、よい印象はまったくなかったのだ。ちなみにオキアミ初使用日の釣果は、まるっきり覚えていない。

オキアミ
エビのようでエビでない? 初めてオキアミを使った印象は決してよくなかった……

それから2、3年後、同じ宇和海の中泊の磯へ行く機会に恵まれた。大学進学のため釣り自体を中断していたので久しぶりの磯、オキアミだったのだ。渡礁したのはクロハエという大きな磯。そこには所狭しと竿を振る磯釣りマンがズラリ。そのほとんどがカゴ釣りで狙っていたのはヒラマサ、湖産エビがエサだった時代の磯上物釣りの感覚では考えられないターゲットだ。

四国でも南紀でも上物釣りのエサはオキアミがメインになっていた。そのオキアミがもたらした新たなターゲットがヒラマサ。そしてシマアジ。もちろんグレもオキアミで釣る時代に。カゴ釣りでの青物ブームが巻き起こり、グレもカゴ釣りで狙う人が目立つようになっていた。オキアミ、すなわちオキアミ科のナンキョクオキアミという南氷洋からやって来た高タンパクで脂肪たっぷりで抜群に美味いエサに、ヒラマサもシマアジも、そしてグレも狂喜乱舞したのだった。

時を同じく東シナ海に浮かぶ男女群島では尾長の大グレブームが起こった。こちらはフカセ釣りだったがオキアミを撒けば60cmオーバーの尾長グレが急潮のなかでバンバン食ってきたのだ。まだ配合エサなど存在しない時代。冷凍オキアミを1体、2体と磯に持ち込んでの釣り。1体(たい)とは業者が使う単位でオキアミの場合は12kgが1体。米袋のような袋に入れられ縄で縛ってあった。ちなみに1体を4等分したものが、現在多くのエサ店で売られている3kg板である。

オキアミ
現在、エサ店で多く見かける3kg板のオキアミは1体の4分1サイズ。もともとの大きな12kg板をカットして売られているのだ

その後、オキアミはあらゆる釣りで使用されるエサになった。まさに国民食的メインメニュー。飽食気味ですらある。しかし現在でも、多くの魚が好むエサであることには変わりはないのだ。

オキアミ
オキアミ
オキアミ
ハリの刺し方もいろいろ。オキアミは日本の釣りシーンでは欠かせないエサ。いまでは当たり前すぎる万能エサなのだ

「アミエビ」魔力的フレイバー!

サビキ釣りに欠かせないアミエビはアミ科に属す甲殻類の俗称だ。釣りエサとして売られているアミエビには、コマセアミを中心にアシナガヨアミ、ミツクリハマアミ、イサザアミなど数種が含まれる。近年は見かけることが少なくなったが、いわゆるアミエビの別称である赤アミに対し、白アミと呼ばれているものは汽水域に棲息し佃煮などで有名なイサザアミだろう。

赤アミ
赤アミ
サビキ釣りに欠かせない赤いアミエビは赤アミとも呼ばれる。コマセアミなど数種類が混じっているという

サヨリ釣りなどでは大粒のものをハリに刺して使用されるアミエビだが、その多くはマキエでの使用だろう。サビキのアジにイワシ、サバを筆頭に船のイサギ釣りではアミエビが欠かせないし、磯釣りやイカダ釣りのマキエの一部にも使用される。オキアミ登場以前、湖産エビが不足した時代、グレ釣りのマキエを塩漬けのアミエビ(塩アミ)に頼った時代もあった。

大粒のアミエビ
大粒のアミエビ
大粒のアミエビ
サヨリ
サヨリ釣りのサシエで使用されるのは「サシアミ」などの名前で売られている大粒のアミエビ。マキエはサビキと同じ小粒のアミエビだ

とにかく集魚力は抜群である。非常に臭くて人間には鼻が曲がりそうなニオイではあるのだが、それは魚たちにとっては非常に魅力的なフレイバーであるらしい。

あるとき水槽でチヌにハリに刺したエサを食わせ、その瞬間を撮影する現場に立ち会う機会に恵まれた。警戒心が強いチヌである。ハリにはアオイソメやオキアミと、チヌの好物をセットするのだが、なかなか口を使わない。そこで登場したのがアミエビ。冷凍物を解凍し、そのままではなく、ぐちゅぐちゅにすりつぶして水槽に入れてみた。

すると!それまで警戒して水槽の隅で動こうとしなかったチヌがそわそわ(したように見えた)しだし、明らかに興奮状態になったのだ。そして次の瞬間、アオイソメを刺して垂らしてあったハリに見事食い付いた。

チヌ
警戒心が強いチヌまで狂わせるアミエビには魔力的なフレイバーがある。標準和名コマセアミのネーミングは伊達じゃない!

まさにアミエビの魔力的な威力を垣間見た瞬間だった。アミエビおそるべし! 焼き肉のニオイをかいでお腹が鳴るわれわれのように、魚たちもアミエビのニオイで食欲にスイッチが入るのは間違いない。

(次回のお品書きは甲殻類系のエサ その2 ボケ&カメジャコの予定です)