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周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第6回は、かつては当たり前だったが、いま想えば変わり種のグレ釣りのエサについて。
オキアミを使い出して
さまざまな魚が狂ったように……
磯のグレ釣りのエサは全国的に冷凍オキアミ一色である。生、ボイル、加工ものという種類はあるが、グレ釣りといえばオキアミ以外を使うことはひじょうに希である。南氷洋などで大量に採れるオキアミは、当時は安価(現在はかなり値上がりしてしまった)で、マキエをして魚を集め浮かせてねらうグレ釣りにはまさに打って付けで、また魚にしてみればその味もよかったのだろう、グレの食いは抜群で一気に日本中に広がった。
また、このオキアミの”魔味”はグレだけでなくチヌ(クロダイ)、マダイなど多くの魚たちを狂わせた。日本中の磯にヒラマサブームを巻き起こしたのも、このオキアミの出現によるところが大きい。そして現在、多くの釣り種、さまざまな魚種をねらうエサとしてなくてはならない存在なのは、ご存じの通りだ。
冷凍の湖産エビが主力だった
関西のオキアミ登場以前
オキアミ登場以前、グレ釣りの主力エサは関西では冷凍の湖産エビだった。「湖産」すなわち「琵琶湖産」のスジエビだ。さらにそれ以前、とくにグレ釣りが盛んな徳島の磯では、生きたスジエビを五段籠と呼ばれる竹製の籠を背負って磯に出ていたと聞く。どのタイミングだったかの記憶は薄いが、オキアミ登場以前にはアミエビだけのマキエが主力の時代があったことも付け加えておこう。
オキアミ登場以前の伊豆などでは
イワシのミンチをコマセに
関東ではグレを標準和名のメジナと呼ぶが、同じオキアミ登場以前でも伊豆半島など東海地方の磯(三浦半島や房総半島方面も?)ではイワシのミンチをコマセ(マキエ)にイワシの短冊をハリに刺してねらっていたらしい。いまでは「グレに?」という感じのエサだが、三重県尾鷲市の九鬼地区の磯では、ここだけはなぜか関西からの釣り人も多かったはずなのにイワシエサでのグレ釣りが昭和50年代まで続いていたように思う。
ハバノリにアオサにフナムシ
季節ごとの特効エサ
その昔、グレ釣りのエサは季節によりさまざまなものがあった。たとえば冬場から春先はハバノリ、アオサなど海藻で釣ることも珍しくなかったし、熱い夏場の高水温時はエサ取りに強いフナムシをマキエにもサシエにも使用することがよくあった。あまりのエサ取りの猛攻に手を焼き、磯を這っていたフナムシを捕まえてハリに刺した途端に良型のグレが釣れて、その威力に驚いたものだ。
ハバノリやアオサというエサは、本来は海藻食であるグレの食性にマッチするという点で理にかなっているし、エサ取りの他魚があまり食い付かないということでも心強いエサだった。
ところでアメリカ大陸の西海岸、バハカリフォルニアあたりに日本のグレと同じメジナ科で「オパールアイ」という魚がいるのだが、このオパールアイをねらうエサが何と「グリーンピース」だと聞いたことがあった。
実は兵庫県神戸市の垂水一文字(現在は渡船禁止)にはグリーンピースのエサでフカセ釣りをする人がいて、高水温時にグレはともかくチヌやマダイを釣り上げていた。海藻を好むグレが同じ植物性のエサで釣れても不思議ではないのかもしれない。
本来は海藻食のグレだが
生存のために動物性のエサも食う
そのような海藻食であるはずのグレが、なぜエビやオキアミなどの甲殻類も食べるかというと、自然界ではある程度雑食でないと生きていけないからで、紀州釣りでグレをねらう際のエサはゴカイというのも古くからの定番である。
そういえば子どものころ、兵庫県の日本海側、但馬海岸のある港で小グレをねらうウキ釣りでゴカイのエサにしかアタリがなかったことも記憶している。
そんな雑食性の魚の代表格であるチヌになると、グレ以上に使用するエサのバリエーションの多さには目を見張る。次回はそんなチヌを筆頭にほかの魚も含め、古今東西の地方色豊かなエサについて回想しようと思う。