あの釣りこの釣り古今東西 No.5 大阪湾や播磨灘で見かけなくなった
かつての定番&人気ターゲット

周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第5回は大阪湾や播磨灘の懐かしいターゲットたち。昔はそれぞれのシーズンになると多くの釣り人が熱をあげたものだが、近年はほとんど話題に上ることがなくなった魚たちを思い出してみた。

春の食卓に欠かせない
「イカナゴのくぎ煮」だったけど……

そういえばわが家の食卓から「イカナゴのくぎ煮」の姿が消えて久しい。以前は毎年3月になるとキッチンにたちこめる醤油と生姜の香ばしい香りに春を感じたものだが、おそらく10年以上はお目にかかっていない。

とにもかくにも播磨灘~大阪湾でのイカナゴ不漁による価格高騰が原因だ。以前はキロ数百円で購入できたが、ある時期からその10倍前後の値が付くことも多くなった。1シーズンに数kgは炊きあげて地方の知り合いなどにもお裾分けしていたが、その値段では手が出なくなってしまった。

06_イカナゴのくぎ煮
釣りの対象魚ではないけれど……。熱いご飯に「イカナゴのくぎ煮」が春の定番だった
出典:写真AC

生きたイカナゴは播磨灘沿岸の磯や波止からのメバル釣りのエサにも使ったし、徳島県の鳴門では船からのヒラメねらいの特効エサとして使用されることがあったが近年は……? 兵庫県明石市のエサ店ならハリに刺せる程度の量ぐらいは入荷しているかもしれない。

播磨灘のかつての定番
イイダコにキュウセン

そんな播磨灘で、ほとんどといってよいほど釣れなくなったのがイイダコだ。毎年秋になると明石~東二見の遊漁船ではイイダコ釣りが盛んだった。しかし近年、イイダコねらいに出る船は皆無だと聞く。岸からの投げ釣りでもねらえるほどイイダコはたくさんいたはずなのに……。同じ瀬戸内海でも岡山や香川あたりでは、まだ釣れているらしい。

07_イイダコ
大きくて10cmほどのイイダコなので、とにかくたくさん釣らないと話にならなかったが、煮付けなど秋の味覚だった
出典:写真AC

同様に播磨灘~淡路沖をポイントにする遊漁船のターゲットで少なくなったが夏場のベラ(キュウセン)だ。投げ釣りではそこそこ釣れるような気がするが、船からねらうほど魚は多くないのかもしれない。もしくは、ベラ自体の人気がなくなったのかもしれない。
ちなみに明石以西の瀬戸内海では人気魚種だが、大阪方面の人には昔からベラを食べる文化がない。

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明石以西の瀬戸内海では人気魚種のベラ(キュウセン)は、素揚げや素焼きにして南蛮漬けにすると美味

そういえば夏場、播磨灘の鹿ノ瀬をポイントに遊漁船から30cmを超す良型のマルアジがよく釣れたが、これも最近耳にしない…。
そしてクロソイも少なくなった。播磨灘だけでなく大阪湾でも船からのメバル釣りなどの他魚としてよく釣れたが、近年は? 40cmオーバーという大型もけっこう釣れたのに寂しい限りだ。

08_クロソイ
船のメバル釣りなどの他魚としてよく釣れたクロソイは40cmオーバーという大型も珍しくなかった

加古川のボラ掛け
考えられない危険な釣りだった

その昔、私が幼少時代を過ごした兵庫県の高砂市など播磨灘や大阪湾の沿岸では冬場にボラ掛け(ダマシ釣り)が盛んだった。
加古川河口付近より少し上流にある、石積みの護岸で竿を出すのはベテランのおじさんたち。10m(?)もあるような長い竹竿(1本もので竿尻の直径が10cm以上もあったかもしれない)の竿尻にはバランスを取るための大きな石が取り付けられ、竿先から出た短い糸にはボラの掛けバリ。そして、そのカエシのない大型の3本イカリバリの上に赤や青のゴム片がビラビラと付いており、このビラビラに興味を示したボラがすり寄ってきて御用になるというシステム。

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ボラを好んで食べる地域は少ないが、その昔、大阪湾や播磨灘では「ボラ掛け」が盛んだった

ボラが掛かると、テコの原理で竿受けに支えられているとはいえ、とんでもなく重い竹竿を持ち上げでグルッと陸地向きに回し、ボラをドスンと岸辺に落とすという釣り。

子ども心に「すごい!」と思ったが真似できるわけでもなく、諦めかけた自分の目に飛び込んできたのが加古川に架かる国道橋の欄干にズラリと並んだ釣り人。リール竿(たぶん投げ竿)の糸の先にはダマシ釣りのイカリが付けられていた。
この釣り方で、掛かったボラを橋の上まで引き上げる途中で落としてしまうことも多かったが、橋の上に引き上げられバタバタと暴れるボラを、行き交う自動車のスキをみて取り込んでいたのだ。

当時、この橋には歩道部分がなく、欄干に陣取った釣り人のすぐ背後を乗用車、ときには大型トラックがびゅんびゅん。警察のお世話になることがなかったのが不思議なぐらいだが、現在では完全アウトの危険この上ない釣りだ。昭和40年代、そんな時代だった。

まだいる!とんとご無沙汰の魚たち
復活の日はあるのだろうか?

とにかく投げ釣りが盛んだった昭和の播磨灘や大阪湾だが、ポンと呼ばれるアイナメの大型もよく釣れたし、チョイ投げでカレイも普通に釣れた。ゴカイをエサにウキ釣りをすればウミタナゴも掛かったし、河口部でハゼをねらうのも楽しかった。

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古い釣りの教科書に必ずあったのが「ウミタナゴ釣り」のページ。近年はメディアに登場することも少なくなったようだ

アナゴはどうだろう? 料理が難しいのでねらう人はいるのだろうか? 平成になってからは明石海峡筋のオカッパリで良型ゴマサバもよく釣れたけど、最近あまり耳にしない。そういえば小型のスルメイカが大阪湾岸でよく釣れた時代もあったっけ……。

09_アナゴ
大阪湾や播磨灘で夜の投げ釣りやブッ込みで釣れるマアナゴ。さばくのが難しくねらう人は少ないと思われるが実に美味

釣り対象魚の盛衰は第一に環境の変化に伴うものと考えられるが、釣り人側の興味の持ち方や流行にも左右される部分が大きいだろう。さてさて、突然のようにあの懐かしい魚たちが再び持てはやされる日は来るのだろうか?