あの釣りこの釣り古今東西 No.4 ウキが沈んでも空振りばかり……
アオリイカ釣りがローカルだった時代のこと

周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第4回はアオリイカのウキ釣りについて。アオリイカ釣りはショアのエギング、オフショアのティップランエギングを筆頭に現在では超メジャーな釣りジャンルのひとつだが、かつてアオリイカという名前すら知らなかった時代が僕にはあった。そのアオリイカとの出会いは実に意外なものだったのだ。

メバルねらいの磯の夜
シラサエビをエサに電気ウキ釣り

記憶とたどれば20歳代半ば、1980年代だ。ある日、仲間と和歌山県は中紀エリア、衣奈(えな)の黒島の磯に「メバルねらいの夜釣り」に行ったときのことだった。シラサエビ(スジエビ。関東ではモエビ)をエサに電気ウキ釣りを楽しんでいた。
(もちろんマキエもシラサエビだった)

釣りを開始してほどなく、電気ウキの赤い灯(ひ)がユラユラと海中に沈む。「さっそくアタッた!」と竿を立ててアワセるが空振り。「あれ、早かったかな?」ということが何度か続いたが、ついにハリ掛かりさせることができた。

抜き上げて驚いた!
まさかイカが掛かるとは……

でも引きがおかしい。グリグリグリというメバルの引きではない。ズルーッとかジワーッとかいう感じなのだ。「ゴミ?」いや、それでも時折グーグッグーという引き込みがあるので何かの生物が掛かっているようなのだが…。そうして謎の獲物を暗い海面から抜き上げ、足下の磯の上に落としてみると……。

ライトを当てて驚いた。「えっ、イカやん」当時、イカなんて船から釣るもので、陸、それも磯で釣れるなんてまるで知らなかったのだ。メバルバリが触腕の先端付近にかろうじて掛かり上がってきたのは、胴長15cmぐらいの小型だったが、あとになってそれが人生初のアオリイカだったことに気が付いたのである。

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当時の写真はないが、メバルねらいで釣れたアオリはこれぐらいのサイズだったと思う

シラサエビなど生きたエビでイカを釣る方法としては、大阪湾や伊勢湾などで古くからヒイカ(小型のジンドウイカなどの総称)釣りがある。「チイチイバリ」と呼ばれる独特の仕掛にエビを串刺しにし、下部の小さい傘バリでイカを掛ける仕組み。これも電気ウキの夜釣りだ。
なるほど、生きエビでアオリイカが釣れても不思議ではなかったのだ。

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生きエビで釣るイカとしてはヒイカが昔から有名
出典:写真AC

セイゴと一緒にアオリもねらった
明石・大蔵海岸もエビエサで

その後、30代も半ば(90年代)になるとアオリイカ釣りのブームが起こった。餌木釣りはエギングと呼ばれるようになり、古くから紀州などで盛んだったヤエン釣りも一躍メジャーになった。

そんなときシラサエビのエサで再びアオリイカと出会う。場所は兵庫県明石市の大蔵海岸。夜間、仲間うちで出掛けた「エビ撒きのセイゴ(スズキの若魚)釣り」でアオリイカも同時にねらった。

アオリイカの気配が感じられるときは、電気ウキ釣りのセイゴ仕掛のハリに、アユ友釣りの掛けバリを流用したイカリバリを追加セットする。

この仕掛でアオリイカが掛かる確率はうんとアップしたし、セイゴが食ってきても口が大きい魚なのでイカリバリごと丸飲みしてくれ問題なし……という具合。

そう、現在ではポピュラーになった、生きアジをエサに使用するアオリイカのウキ釣り仕掛のミニチュア版だ。

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ちょいマジ堤防 アオリイカ釣りセット シンプル遊動式」など、アオリイカのウキ釣り仕掛はアジなど生きた小魚のエサをセットする

青物用の生きアジが足りなくなるほど
アオリイカが多かった沼島の磯

また同時期、兵庫県淡路島南部に浮かぶ沼島(ぬしま)の磯で青物をねらう「ノマセ(生きアジの泳がせ)釣り」でも、アオリイカにアジをかじられるときはイカリバリをセットしたが、どういうわけかイカリをセットすると途端にアオリイカのアタリが途絶えてしまうことが多かった。

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ノマセで青物をねらう生きアジの後頭部? をかじるのはアオリイカの仕業
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沼島の青物ノマセ釣りでのエサ取り!? アオリイカをお土産にゲットした友人

アオリイカは警戒心が強い(眼がよい?)のだろう。しかしメジロやハマチはイカリバリが付いていても、かまわずアジを丸飲みするのは明石のセイゴ釣りと同じだった。

近年、明石界隈も沼島も以前のようにアオリイカの姿は多くなく、とくに沼島ではイヤというほど生きアジをアオリイカにかじられ、肝心の青物を釣るエサの心配をしていたころがとても懐かしい。そんな時代があったのだ。