INDEX
- ● 魚の部位にまつわる魚へんの漢字
- ・【鱗】
- ・【鰭】
- ・【鰓】
- ・【鯝】
- ・【鰾】
- ● 魚の部位も知っておこう
以前、私がこれまで気になった魚へん(偏)の漢字のなかで、「季節や自然」にまつわるものを取り上げさせていただいた。今回は、その際に文量の関係から取り上げることができなかった、「魚の部位」にまつわる漢字をご紹介。
逸話や由来が面白いというよりは、釣りや魚について日々携わるうえで、単に知っておいて損はないと感じたため。個人的な都合で大変恐縮だが、「せっかくなのでまとめて覚えてしまおう!」という勢いにまかせて、魚へんでない漢字も含めた部位名称を見ていきたい。
魚の部位にまつわる魚へんの漢字
「へん」と「つくり」からなる漢字。あまたある漢字のなかで、魚へん(さかなへん・うおへん)の漢字は大半が魚の名称を表している。しかし、なかには魚の名称ではなく、水の中や水辺にすむ「何か」生物の名称にあてられていたりもする。例えば、貝類や海獣、カメやワニなどの爬虫類、甲殻類やクラゲなどがそうだ。また他にも、それら生き物にまつわる漢字や料理など、魚へんの漢字はさまざまあるといった具合だ。
直接、何か魚の名称ではないものの、知っておいて損はない「魚の部位」にまつわる漢字。では早速見ていこう。
【鱗】
つくりの「粦(リン)」は鬼火を表し、「鬼火のように連なっている」という意味があるそうだ。魚の表皮に連なり並んでいる「ウロコ」の様とそれとが重なり、魚へんと組み合わさって「うろこ」と読む。
魚のウロコは、生物学上では「真皮より形成される皮骨」とされており、カメの甲羅と同じだそう。体全体を覆う服というよりは、鎧(よろい)のような役割を果たしている。
われわれ釣り人にとっては、料理の際に面倒なウロコ取りがある程度だが、よくよく見ると、木の年輪のような線模様があり、魚によって大きさもさまざま。そして光の当たり具合によっては、キラキラと虹色に輝いてみせたりもする。意外にもウロコ1枚のなかに、心をひきつける何かを持っているように感じる。
【鰭】
「おいる、たしなむ」という意味をもつつくり「耆(キ)」は「脊」に通じ、背骨や背中を意味するという。魚へんと組み合わさることで、「魚の背中の骨」で「ひれ」と読むそうだ。
魚のヒレは軟骨と硬骨で支えられており、魚によっては「第1背ビレ」「第2背ビレ」に分かれているもの(アジやカツオ、マグロなど)もいれば、頭の方を「背ビレ棘条部(きょくじょうぶ)」、尾ビレ(尻尾)の方を「背ビレ軟条部(なんじょうぶ)」といい、性質は異なるが1つにつながっているものもいる。
骨が硬くとがっているため、こんがり焦がしたものをバリバリ食べる場合を除いて、食べないことがほとんどのヒレ。しかし、なかにはフカヒレのように高級で珍重されるものや、ヒレ酒のように香りを楽しむものもある。それでも釣り人にとっては、さばく際に手に刺さったり、魚によっては毒があったりと、用心に越したことはない。
【鰓】
アゴ(上あご)を意味する「アギト(顎門)」とも読むこちらの漢字は、魚の「えら」。魚の呼吸器であるエラは頭部の頬部分にあり、深紅色でくしの歯状、または、格子状をなした器官だ。
エラはエラ蓋に守られたかたちで頬の中にあり、エラ蓋の縁には鰓膜(さいまく)と呼ばれる膜がある。エラ蓋をピッタリと閉じる役割だ。魚はエラを閉じたり開いたりすることで水流を起こし、上手く呼吸できるというわけ。そのため筋肉も発達しており、頬まわりのいわゆる「カマ」と呼ばれる部分は美味しいのだ。
ちなみに、水中では酸素の入手が陸よりも困難だそう。海の酸素濃度は陸のたったの30分の1。空中では酸素が拡散していく速度も速いそうだが水中ではそうはいかない。そのため、魚は酸素を効率よく体内に取り込むために、薄い板を何枚も重ねて層状にしたエラに水を流し、板の内部に走っている血管内に酸素を取り込むことで呼吸している。
水に溶けた酸素を取り込むエラは、陸上では表面張力で薄い板が互いにくっついてしまい、酸素を取り込むために必要な表面積が稼げないらしい。そのため、魚は陸上では酸欠になるそうだ。キャッチ&リリースの釣りでは、できるだけ早めに戻してあげよう。
【鯝】
魚の腸や胃といった内臓のかたまりを指し、「コ」と発音するこちらの漢字は、魚の「はらわた」を表す。カツオの内臓の塩辛やナマコの腸管を塩漬けにしたコノワタなど、古くから食材とされてきた。
ちなみに一般的な「はらわた」は、「腸」という漢字があてられており、大腸や小腸をメインに身体の内部にある臓器全般を指すようだ。すなわち臓腑(五臓と六腑)や内臓といったところだろうか。
釣りあげて締めた直後の魚の身は、まだタンパク質が分解されておらず、ある程度分解されるこことで、旨味成分が多く含まれるようになり美味しくなる。しかし内臓に関しては、締めた後、身よりも早く腐敗が進み(内臓の消化酵素による影響)、腹の中の鮮度は落ち、ニオイもきつくなる。「はらわた」をあえて食すのでなければ、面倒でも釣りあげた直後に内臓やエラを取り除いた方が、新鮮で美味しい魚料理をいただけることは間違いない。
特に夏場は傷みが早いので要注意だ。
【鰾】
つくりの「票(ヒョウ)」は火の粉が舞い上がる様子を表す会意文字だそうで、「軽い」「札」などの意味も持つ。その票と魚へんとが組み合わさって「(魚の)うきぶくろ」と読む漢字。はっきりとした成り立ちは分からなかったのだが、恐らくは「軽い」というイメージから、魚が水中で上下移動する際に伸縮するウキブクロを指したのではないかと思われる。
(あくまで私の個人的な意見です。ご了承ください)
魚のウキブクロは消化器官の背側にあり、中に満たすガス量を調節することで浮き沈みするのだが、われわれ脊椎動物でいう肺と関係があるそうだ(※ウキブクロの進化が肺というわけではない)。そんなウキブクロの伸縮時に、「グーグー」と音が出る魚として有名なニベやホウボウに、この「鰾」を当てることもある。
魚の部位も知っておこう
ここではシンプルに、魚のカラダの部位名称を見ていこう。すでにご存じの方も多いだろうし、「魚へん関係ないのでは?」と思われる方もいらっしゃると思うが、ついでということで……。
よければご参考いただきたい。
ちなみに、カレイやヒラメといった「裏か表か? 上か下か?」といった風変わりな魚も、実は他の魚同様に、表裏や上下ではなく体は左右側面なのだ。たまたま、獲物を捕らえやすいように片側に目が寄ってしまっただけ。なので、体の片側を地面に伏せて倒れているといった具合だ。
目のある方(一般的に表や上)を「有眼側(ゆうがんがわ)」、目のない方(一般的に裏や下)を「無眼側(むがんがわ)」という。
といったわけで少々無理があったかもしれないが、魚の部位にまつわる魚へんの漢字、いかがだっただろうか? できるだけ漢字の意味や成り立ちの面白さに触れながら、今後も楽しく学んでいければといったところだ。また機会があれば紹介させていただきたい。
ぜひ、懲りずにお付き合いを…。
※本文の漢字の成り立ちや名前の由来は諸説あるうちの一部です。ご了承下さい。
出典:
新村出編 (2018) 『広辞苑』第7版 岩波書店.
小西英人著 (2018) 『写真検索 釣魚1400種図鑑』 KADOKAWAメディアファクトリー.
江戸屋魚八著 (2002) 『ザ教養 魚へん魚講座』 新潮社.
加納喜光著 (2008) 『魚偏漢字の話』 中央公論新社.
本川達雄著 (2017) 『ウニはすごい バッタもすごい デザインの生物学』 中央公論新社.