From HEAT the WEB DIRECTOR 知って得する!魚へんの漢字
秋が旬の魚にまつわる漢字トリビア

魚へんの漢字_text-photo_岳原雅浩

秋。朝晩の気温はグッと下がり、日中は日差しがあるとはいえ清々しく爽やかな風が心地よい季節。真っ赤な夕日が西の空を染める景色や、黄金色に染まる山の移ろいを見た日にはなんだかおセンチな気分に…。しかしながら、身体を動かすにはもってこいの季節。スポーツレクリエーションやお出掛け、キャンプにBBQと活発に! ついでにお腹が空いてしょうがない(笑)。きっと読者のみなさんも、週末の予定でいっぱいではないだろうか?

さて逸話や由来が面白いというよりは、釣りや魚について日々携わるうえで、単に知っておいて損はないと感じる魚へんの漢字。個人的な都合で大変恐縮だが、お腹がへってしょうがない季節を迎えた今回は、「秋が旬の魚」にまつわる漢字をご紹介したい。

秋が旬の魚といえば…!
アナタはいくつ知っていますか?

illust01_ 魚へんイラスト

「へん」と「つくり」からなる漢字。あまたある漢字のなかで、魚へん(さかなへん・うおへん)の漢字は大半が魚の名称を表している。常用漢字ではないものも含めて、ひじょうにたくさんある魚へんの漢字…。「いったいコレなんて読むの?」と、まず全て読める方は少ないだろう。そんななか、今回も(?)有名なものばかり??

まずはおさらい!【鰍】と【鰹】

illust02_ カジカ漢字
illust03_ カツオ漢字

以前の記事にも登場した魚へんに「秋」と書く漢字は、そう「カジカ」
その仲間は海にも淡水にも多いが、漢字のものは、なかでも淡水で水のきれいな川に棲むものを指している。カジカは頭が扁平で不格好な姿も相まって、カエルの一種のカジカ(河鹿)と間違えられたようだ…。そのため秋によく鳴く魚と誤解され、この漢字があてられたそう。

そしてこちらも以前に登場した漢字、魚へんに「堅」。スズキ目サバ科に属し、日本近海(主に太平洋側)を回遊する魚「カツオ」
年に2回旬が訪れるといわれているカツオは、春ごろになると黒潮に乗ってエサのイワシを追いかけ日本(九州から高知)へとやってくる。そして2度目の旬の秋にはエサを豊富に食べ栄養タップリ! 三陸沖でUターンし南下してきたカツオはモッチリとした身で秋の「戻りガツオ」という。
カツオの漢字は「堅魚(かたうお)」が変化したもの。お察しかもしれないが、鰹節がひじょうに堅いことから「鰹」になったというのが通説だ。(ほかにも諸説あり)

01_ カジカ
出典:写真AC
01_ カツオ

さらに、これ読めますか?【鰂】【鰶】

illust04_ イカ漢字
illust05_ サンマ漢字

秋が旬といえば外せないこの2つ。
1つは厳密には魚ではないものの、その身の甘さや調理のしやすさが嬉しい「イカ」。なかでもアオリイカはあまり市場には出回らず、エギングファンには大人気のターゲットだ。そしてもう1つは、焼くと大変香ばしく、もちろんジューシーな身が美味しい秋の味覚「サンマ」
一般的にイカは「烏賊」、サンマは「秋刀魚」と書くのだが、「鰂」「鰶」という漢字があてられてもいる。

イカの語源は「厳めしい」からつけられたという説があり、その姿の角ばっている様からきたという(確かではないそうだが)。漢字表記としては古代中国で「烏鰂(うそく)」という漢字があてられており、イカの足(腕)にある吸盤の特徴をとらえて、「則」や「即」といった「ピッタリひっつく」というイメージからきたそうだ。
一方、釣りではあまりお目にかからないが秋の味覚の代表格サンマは、江戸時代に河岸にサンマが入荷されるとお祭り騒ぎになったことから「鰶」とも書くという。しかし、本来「鰶」はコノシロを指す漢字である。語源は「体が狭い魚=狭真魚(さまな)」から転化したのだそうだ。

02_ アオリイカ
02_ サンマ
出典:写真AC

【鯵】

illust06_ アジ漢字

スズキ目アジ科に属す、誰もが知っている魚「アジ」。もちろん漢字もよく知られている。
夏の型の小さい豆アジや小アジをサビキで数釣りするもよし、最近ではジグヘッド+ワームの「アジング」で意外にパワフルな引きを楽しむこともできるし、はたまた船から大型で脂ののったアジをねらうのも楽しい、釣り人になじみ深いターゲット。

一般にアジと呼ばれる魚は世界に25属約140種もいるといわれ、体の側線に鋭いトゲを持つ「稜鱗」(ゼンゴ・ゼイゴ)が発達する仲間のこと。しかし、普通はマアジを指す。
マアジは、沖合から沿岸を回遊する沖合回遊性で背が黒いクロアジ型と、沿岸に生息し定着性が強く、体高が高く背が黄色いキアジ型とがいる。

アジの語源については「味が旨いからアジ」だという単純な説が濃厚で、ほかにも味の旨い魚はたくさんいるのにアジが真っ先に優先権を獲得しただけの話だそう。
中国では「魚喿(そう)」の俗字として「鰺」があてられたとのことで、「魚喿(そう)」は「鮏臭(せいしゅう)=なまぐさい」を意味する漢字だそうだ。ところが日本では、アジは海の中で群れをなして回遊する様から、参加・参集の「参」を利用し、魚へんをつけて鯵とした。群集する魚だから鯵になったというワケだ。
EPAとDHAが多く含まれ脂ののったアジ。サビキ釣りでもアジングでも次第に型のよくなる秋に、ぜひ美味しいアジを味わってみてはいかがか?

03_ アジ

【鯖】

illust07_ サバ漢字

スズキ目サバ科に属し、アジ同様、釣り人になじみの深い魚「サバ」。サビキ釣りやジギングなどでもよく釣れ、釣り上げても元気よくブルブルと体をふるわせところが何だか可愛い。

春の産卵でやせたサバは、北の海でエサとなるプランクトンをたくさん食べ、秋になって南下してくるころにはしっかりと脂がのって美味しくなっている。
マサバは背中に青黒色の縞模様があり、腹側は銀白色。そして尾ビレは黄色いことが多い。一方、体側中央や腹側に暗色斑があるものはゴマサバ。いずれも日本近海だけでなく、世界中の温暖海域に広く生息している魚だ。その身は「サバの生き腐れ」といわれるように傷みやすく、アミノ酸の一種「ヒスチジン」が多いため、鮮度が落ちると酵素によってヒスタミンに変化、じんましんなどのアレルギーの原因となる。
とはいえ、旨味成分が多くEPAやDHAの豊富なサバは、塩焼きや味噌煮、竜田揚げなど数多くの料理で楽しめるほか、生食の場合は、酢で締めた「しめさば」や「さばずし」などで親しまれている。

サバの語源は、アゴに円錐状の歯が生えているだけでなく、口の中にも微細な歯がある様「狭歯(さば)」からサバとなったという(諸説あり)。
中国の「鯖」は四大家魚のひとつとして食用にされているアオウオだそうだが、こちらは淡水魚。日本のサバは見た目の色の特徴、青々としたその姿から魚へんに「青」があてられた。釣り人にとって青物といえば、ブリやヒラマサ、カンパチが真っ先に頭に浮かぶが、漢字からすると、サバが最も青物だといえるかもしれない。

04_ サバ

【鮪】

illust08_ マグロ漢字

「体が真っ黒いから…」「眼が黒いから…」など、その語源に諸説ある「マグロ」
スズキ目サバ科に属す大型の海水魚で体は紡錘形、いかにも速く泳げそうな姿だ。しかし、ほかの魚のようにエラをパタパタと動かし呼吸ができないため、常に口を開けて泳ぎ続ける必要があるという不便さも…。

はるか昔、縄文時代から食されたマグロは、現代も変わらず刺身やお寿司で人気の魚。なかでも体長3m、体重300kgにもなるクロマグロは「マグロの王」本マグロとして、最も値段が高い。そのほかのマグロは、キハダマグロ、ビンナガマグロ、メバチマグロ、コシナガマグロなどがいるが、「クロマグロ→ミナミマグロ(インドマグロ・クロマグロの近縁)→メバチマグロ→キハダマグロ→ビンナガマグロ」の順に値段が安い。
ちなみに、ツナ缶になるのはビンナガマグロ。熱したときの色や味が鶏肉に似ているので「シーチキン」と呼ばれるのだそうだ。

そんなマグロの漢字表記については、なんと読み違いによるらしい…。
つくりの「有」は、ないものがその場にひょっこり現れるというイメージを表すそうで、中国では春にひょっこり現れると考えられたチョウザメに鮪とあてた。ところが、日本人はこれがシビ(マグロ)であると勘違い。その後、マグロと読むようになったのは近代だそうだ。

ところで2021年8月21日から2022年5月末まで、釣り船やプレジャーボートからのクロマグロ釣りが国内で全面禁止となった(2022年6月以降は協議のうえ決定されるとのこと)。資源保護がその理由であり、致し方ないところではあるが、多くの愛好者には残念なお知らせだろう。思うところは各々あり、賛否両論意見も分かれるところかもしれないが、変わりゆく環境とわれわれが共存するためには今何をすべきか…。引き続き考え、行動していく必要があるのかもしれない。

05_ マグロ
出典:写真AC

【鮎】

illust09_ アユ漢字

秋の産卵時期に川を下ることに由来し、「落ちる」=「あゆる」が語源といわれる「アユ」
サケ目アユ科に属す魚で、同じサケ目にはマス・トラウトなどのサケ科やワカサギやチカなどのキュウリウオ科、そしてシラウオのシラウオ科などがある。夏が旬のイメージが強いが、秋のアユは「落ちアユ」と呼ばれ、お腹に卵を持っているのが特徴だ。

川の岩についた藻を食べるため独特な香り(スイカの香り?)がするので「香魚」」とも呼ばれる。縄張り意識が強く、自分のテリトリーを脅かすほかの魚に体当たりで追い払う習性を利用した、アユの友釣りは全国的に有名だ。

中国では本来ナマズを指す漢字だそうだが、日本では争いの戦勝を占う際にアユを使ったことから(神武天皇や神功皇后の故事)、アユを漢字1字で表すために、魚へんに「占い」と書く漢字が誕生したらしい。
アナタもアユ釣りで、その年の釣り運を試してみては?

06_ アユ

【鯥】

illust10_ ムツ漢字

幼魚のころは沿岸の浅いところに棲むが、成長するにつれて300~500mの深海へ移動する、目と口が大きく鋭い歯を持った「ムツ」。満腹でもほかの魚を捕食するほど貪欲な魚だ。

ムツはスズキ目ムツ科に属す魚で、北海道南部から東シナ海まで分布するが、陸奥の国では珍しかったのでムツの名が生まれたそうだ。ところが仙台ではムツをロクノウオと呼ぶそう。これは仙台領主(殿様)の陸奥守をはばかって、ムツを「六」に替えて、そう呼んだという。
また、漢字としても陸奥の「陸」のつくりを取って魚へんをつけられたそうだ。

さて、同じムツ科にはクロムツもおり、ムツとともに産卵のために浅場(100m前後)に上がってくる晩秋から冬が旬とされる。脂ののった白身は美味しく、煮付けに最適な魚だ。
ちなみに、ノドグロとも呼ばれるアカムツは、姿かたちが似ており「ムツ」が名につくものの、ムツ科ではなくホタルジャコ科に属す。いずれも中深海釣りの対象魚で、仕掛全長は長くリールも大型のものを使用するちょっと大掛かりな釣り。しかし近年は比較的ライトタックル化が進み、以前よりはねらいやすくなった釣りモノだ。

07_ ムツ
出典:写真AC

 

といったわけで、「秋が旬の魚」にまつわる漢字を紹介させていただいたが、いかがだっただろうか?
今回は比較的なじみのある、読みやすい漢字が多かったのではないだろうか。読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋といろいろだが、やはりキャッチ&イートが楽しい釣りにおいては「食欲の秋」。美味しい魚をたくさんいただくチャンス! 寒くなる前にぜひ釣りに出掛けてみては?

 

※本文の漢字の成り立ちや名前の由来は諸説あるうちの一部です。ご了承下さい。

出典:
新村出編 (2018) 『広辞苑』第7版 岩波書店.
小西英人著 (2018) 『写真検索 釣魚1400種図鑑』 KADOKAWAメディアファクトリー.
江戸屋魚八著 (2002) 『ザ教養 魚へん魚講座』 新潮社.
加納喜光著 (2008) 『魚偏漢字の話』 中央公論新社.