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魚釣りを始めて50余年。長らく釣りをしていると漫画のような面白い経験をする。大してドラマチックな話ではないけれど、思い出しただけで吹き出したり、いま考えても理由が分からない「なぜ?」「どうして?」「うそ!?」という釣魚にまつわる実話を集めてみた。
「一休みメソッド」が効いた!? 初シーバス事件
明石海峡大橋がまだ影も形もなかったころの淡路島は松帆海岸。明石海峡に面したサーフで大型カレイのポイントとして有名だが、日中でもルアーでスズキが釣れるという話に乗せられて? ほとんど投げたことがないシンキングミノー(だったと思う)を手に出かけてみた。
潮流は非常に速い西流れ。サーフの波打ち際に立ち早朝からキャストを繰り返した。10投、20投……まったく反応がない。「ふ~、ああ、しんど」と慣れないルアー釣りなので腕はだるいし釣れる気もまったくしない。
あまりのしんどさにリトリーブ途中でリールを巻くのを一休み。「ほんまに釣れるんかいな?」と疑いながらリトリーブを再開……しようと思ったらルアーがピクリとも動かない。「ありゃ~、さぼったらあかん。サーフでも根掛かりするんや」と諦めかけた瞬間、根掛かりしたはずのルアーがジワーッと動きだしロッドに生命反応が!「うそ? 魚掛かってるやん」と無我夢中で引き寄せて波打ち際にズリ上げたのが70cmのスズキ。
急潮のなかで横にスライドしたルアーアクションがよかったのか? それとも……? 釣ったというより釣れてしまった感が大きいが、これがルアーで釣った初シーバス。それ以降、この「一休みメソッド」は一度も試していない。
このグレ誰の? 釣り手未解決事件
お隣と同時にアタリがあり魚を引き上げてきたら仕掛がオマツリしていて「この魚、僕の? あなたの? さあどっち?」ということはよくあると思う。たいていの場合は魚に掛かっているハリや仕掛を見れば決着するものだ。
ある日の南紀田辺、沖磯での出来事。友人と2人でグレをねらっていた。釣り座は数m離れていたと思う。釣れるグレは30cmそこそこの小型だったがアタリはぼつぼつあった。あるとき2人のウキが同時に入り、ほぼ同時に魚を浮かせてタモに収めようと身構える。ところが左右のサオからのびるラインが同じ方向に向いているのだ。あれっ?
「ごめん、仕掛絡ませたわ」「いやいや、僕の仕掛が絡んだんやろ」と取り込んだグレを見ると……。なんと、どちらのハリもしっかり口に刺さってる。「同時に食ったんかな?」「こんな漫画みたいなことあるねんな」と顔を見合わせて大笑い。さて、これはどちらが釣った魚なのか? 未だ解決していない。
尾長が変身! ギャグ漫画事件
田辺以上に漫画のような出来事を高知県は沖ノ島の磯で目の当たりにした。ポイントは二並島・東の鼻低場。尾長グレの特級ポイントである。朝から友人と2人で40cmクラスの尾長がぼつぼつ釣れていた。
あるとき友人のロッドに、それまでにない良型の引きが伝わる。強引に耐えながら磯際に突っ込まれないよう悪い足場を前に移動する。一旦は海面近くまで浮かしたが、その後の締め込みで魚は際に張り付いてしまった。動かない。「50cm以上あったん違う?」「うん、デカかったなあ」万事休す!
と思った瞬間「おお、動き出した。じわ~っと上がってくるわ」と友人。しかし「あれ、なんか変。重いだけ」と、それでも尾長グレと信じて引き寄せる。「うそ?」「まじで?」と2人が見たものはハリに掛かった黄色いロープ。「そんなアホな!」とロープを手繰る友人。そして海面にガバッと浮いたのは誰かが落としたであろう水くみバケツ。
まるでギャグ漫画。ヤカンだのゲタだの草履だのが釣れてしまうというお決まりのシーン。友人には悪いが思わず吹き出してしまった。 彼は今でもこの話をすると機嫌が悪くなる。ソーリー!
野アユ闘争心むき出し事件
ずっと以前の和歌山県日置川。この日、僕はひとりで友釣りを楽しんでいた。ポイントや時間帯は覚えていないが真黄色で肩の筋肉が盛り上がった、いかにも純海産の天然のアユが釣れていた。サイズは20~23cm。「うん、いい感じ」とオトリローテーションも順調。
ガッツーン! それまでにない激しく暴力的なアタリ。サオを立てると同時にオトリだけがすっ飛んできた。見るとイカリバリのハリスがハリス止めで切れていた。あまりの激しい衝撃に耐えきれなかったのだ。
しかし引き舟には元気なオトリがたんまり。すぐにハナカンを打って同じポイントに送り出した。その途端に再び目印が上流にぶっ飛ぶ激しいアタリ。上流に走ってくれたおかげでハリス切れは回避。しっかりサオに重みを乗せて引き抜きタモに収めた野アユを見て驚いた。背中にはいま掛かったイカリバリとは別に、もう1組のイカリが!
「あっ! お前やったんか!」そう、直前に切られたばかりのイカリが背中に刺さったままだったのだ。自分が巻いたイカリだから見間違うことはない。なんという闘争心! なんという暴れん坊! キッと僕をにらんだ鋭い目がいまでも忘れられない。こんな野性味たっぷりのアユ、長らく釣っていないなあ……。