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大物をねらって長らく磯釣りをしていると、さまざまな魚たちとのファイトを経験する。有無をいわさずブチ切られるのも日常茶飯事だが、運よくゲットできた魚、姿を確認したものの詰めが甘く逃がした魚など、悲喜こもごもの想い出が誰にでもあるはずだ。今回は恥ずかしながらHEATスタッフFのプアーな想い出をベースに、特にフカセ釣りターゲットたちの「引き」について思うところを書いてみた。
幸運!尾長グレは沖に走った
尾長グレすなわち標準和名クロメジナは、フカセ釣りの究極ターゲットだ。ロクマル、そう60cmオーバーの大型を釣り上げることこそがフカセ釣り師のステイタスなのである。とにかく同じグレでも口太と呼ばれる標準和名メジナにくらべ、格段に引きが強くスピードも半端ないのだ。
ハリに掛かった瞬間に一気に突っ走る。それも根やシモリなど障害物に向かって。磯際はともかく根から離れた沖で掛けても、そのスピードを生かし一瞬で足下の磯際に突っ込んでくる。このときリールを巻く速度が遅いと、なすすべなく磯際のオーバーハングや海底の穴に突っ込まれて、あえなくバラシ。「大型の尾長グレねらいにハイギアのスピニングリール」というのは、そのためなのだ。
ある日の高知県沖ノ島。二並島は東の鼻低場でスタッフFは磯際から数m先で尾長グレをヒットさせた。このときは運よく尾長が沖に出てくれたので助かった。ゲットしたのは57cm。目標のロクマルには届かなかったがマジ嬉しかった。もし、掛けた瞬間に磯際に突っ込まれていたら、スタッフFの拙い腕ではバラしていたに違いない。
ロケットスタート!こんなチヌもいる
チヌ(クロダイ)はグレにくらべ、その引きはそれほど強くない。その証拠にチヌ用の磯竿はグレ用にくらべ、ずいぶん細く軟らかい。スタッフFの経験でも50cmオーバーの大型でも竿でためているうちに、沖のほうでガバッと浮いてくる。しかし、そんなチヌもロケットのようなスタートダッシュをすることがあるのだ。
ある日の三重県は阿曽浦の磯。海底まで透けて見えるような浅いポイント。ねらいはグレだった。スッとウキが入る。掛け合わせた瞬間、その魚は浅い海底の溝伝いを沖へ向かって一気にぶっ飛んだ! 「おおっ! グレか?」と浮かせてみたら、なんと45cmほどの良型チヌ。それ以前も、それ以後も、これほどファイトしたチヌにはお目にかかっていない。浅い海底、チヌは横っ走りして逃げる以外に手がなかったのだろう。
但馬で熊野で。大型ヒラマサと遭遇
ある年の秋、兵庫県の日本海側、但馬海岸は香住の磯でヒラマサをねらっていた。朝からまったくアタリがなく、夕方になってようやく気配が出てきてウキが入る。その瞬間、とんでもない引きが伝わっていた。使用ロッドは磯竿4号。カゴ釣りで使うような太く硬い竿だった。掛けた瞬間、そんな頑丈な竿が根元からひん曲がり、にっちもさっちもいかない。締め込んだドラグが滑り、ジリジリとラインが引き出される。両腕で竿を支えているのが精一杯。沖で円を描くように私を翻弄し余裕で根に巻いてハリスをブチ切っていったのだった。60cmや70cmのサイズなら問題なく取れる。きっとメーター近い大物だったに違いない。
三重県南部、熊野のマブリカという磯でもヒラマサには悔しい思いをしたことがある。この時は50cmオーバーの口太グレねらいだったので、ハリスはたぶん2.5号か3号を使用していたと記憶している。そんな釣り場に突如、ヒラマサが回遊してきた。マブリカはヒラマサ釣りでも有名な釣り場だから当然といえば当然だった。
周囲の釣り人に連続してアタリがあり、全員、一瞬でブチ切られている。しかし僕には作戦があった。「ハリ掛かりした瞬間にベールオープン、完全フリーで走らせてやれ」これが見事に図に当たった。どんどん出て行くライン。100mは走らせただろうか? ようやくライン放出が止まったので、竿をできるだけ曲げないようにスローでリールを巻く。ところが、いくらラインを巻き取っても魚の引きが伝わらない。「あれ? ハリ外れ?」と巻き続けると、放出したラインを半分以上巻き取ったぐらいだろうか。ようやく魚の反応が手に伝わった。
その後も、あまり竿を曲げ込まず、ゆっくり巻いては魚の引きに合わせてラインを出す。これが奏功し、ようやく磯際まで引き寄せることに成功。ついに姿を現わしたのは間違いなくヒラマサ。90cmは確実にある。
さあ、最後の詰めだ。先輩磯釣り師がギャフを持って待ちかまえる。磯際での攻防。何回かの突っ込みをかわし、再び下に向かって突っ込まれた瞬間、ラインとハリスの直結部分が……。もう20年以上も前の話だが、いまでもカール状に解けた結び目を鮮明に思い出すことができる。
沖に走った魚は戻ってくる!ノマセ釣りでも……
昨年9月、淡路島の南に浮かぶ沼島の磯でノマセ釣り。エサは生きアジ。タックル、仕掛が共通なのでスタッフFにとってはフカセ釣りの延長である。この日は朝からハマチのアタリが多かったが、なかなかハリ掛かりしない状況だった。ノマセ釣りでは魚がエサのアジを確実に飲み込むまでアワセを入れず、どんどんラインを送り込む必要がある。
この日は特にそれが顕著だった。「もう、いいかな?」と思って合わせても空振りが多発。それでも何尾かのハマチを釣り上げたあと、「これは!?」と大型を予感させるアタリ。食ったのはメジロ級と信じ、それまで以上にラインを送り続ける。
「まだ」「まだまだ」「まだやで」「まだあかん」と我慢に我慢。「さすがに、もうええかな?」とアワセを入れようかと思った瞬間。魚が走っていったであろう遙か沖ではなく、釣り座のすぐ斜め左手沖でバシャッと大きい魚がジャンプ。「あれ? 何?」そう、この魚こそがエサのアジを食って走った犯人。いつのまにか磯のすぐ近くまで戻ってきていたのだ。大きく弛んだラインを慌てて巻き取って、青物の引きとは違う重量感を味わいながら取り込んだのは60cmオーバーのヒラスズキ。それにしても見事なエラ洗いジャンプだったなあ。
引き方で魚の種類がなんとなく分かる!
磯のグレ釣りでは、その引き方で何となく掛かった魚の正体が分かる。尾長グレに関しては冒頭のとおりだが、口太グレは常時、上品な引きだ。むやみに暴れることなく竿に美しい弧を描かせて、スムーズな引きを見せる。外道のイズスミ(イスズミ)は暴力的。一気にウキを消し込んだと思ったら、竿をゴンゴン叩きながら大暴れ。ハリを飲み込まれていると、その鋭い歯で少々太いハリスでもカミソリのように切っていく。サンノジ(ニザダイ)もサオを叩くように引く。走りは口太グレ以上に強烈だが諦めが早いのか、引きに耐えていると突如としてフワーッと浮いてくる。その瞬間に「ああ、サンちゃんや」と気が抜けるのだ。
ヒブダイは一瞬、グレと間違うようなアタリ、引きをする。ウキ入れはグレそっくり、掛けた瞬間のスピードや引き方もそっくり。「おっ、ええグレ掛かったんじゃない?」と期待感マックス。しかし、その後は単調な重い引きに変化。姿を確認した瞬間にテンションだだ下がりになるのは僕だけではないはずだ。
磯釣りには夢がある。ターゲットたちには個性がある。少年アングラー諸君、ルアーもいいけれど、ぜひ一度は磯のフカセ釣りにチャレンジしてみてほしい。お父さんにお願いしよう!