旅は笑顔、石垣島にタナゴモドキとサキシマヒラタを求めて

夜の部 サキシマヒラタクワガタ

一度街へと下り、買い出しや夕飯を済ませる。実は到着してすぐ適当に検索したお店でランチをしたのだが、石垣島へそこそこの回数通っているわれわれ2人が、口をそろえてワースト1の八重山そばだったと言うぐらいお昼に失敗をしていたので、夜はどうしても美味しいそばが食べたかった。「昼間のあの麺なんやねん!」とか悪態をつきながらとっても美味しい八重山そばをすすった(笑)。
さてここからは僕の本番である。そばを食べながら夜の部の作戦会議をした。

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コッキそば。コッキとはこちらの方言でごちそうを意味するそうな

サキシマヒラタとは日本に数種類いるヒラタクワガタのなかでも最大種の一つだが、とくにレアだとか飼育が難しいなどは一切ない。しかし、千葉生まれ栃木在住の僕にとってはそもそも本土ヒラタ(本州に生息する一般的なヒラタクワガタ)すら捕まえたことがない…。
現在は石垣島では採集禁止になってしまっているヤエヤママルバネクワガタをはじめ、南西諸島にはもっともっと希少で虫好きたちを狂わす魅惑のクワガタが何種類もいるにも関わらず、石垣島にわざわざサキシマヒラタを捕りに来たなんて言ったらマニアの方々に笑われてしまうだろうか。いや、そんなことはないはず。なんだかんだで釣りに長く携わってしまったわれわれが、もしも「フナを釣ってみたいんです!」と目を輝かせる初心者に出会っても、絶対に笑ったりはしないからである。

ひたすら夜道をランガン

小型で臆病とはいえ石垣島にはサキシマハブなどの毒蛇もいるし、流石に知識や経験なしで山に飛び込むのは現実的ではないので、先ずは街から宿への道を車で流しながら灯りのあるところをチェックしていくランガンスタイルでいくことにした。結構この辺のプラン立ては釣りも一緒かもしれない。
予報では2時間もしないうちに大雨になってしまうので、文字通り何かに追われるかのように車を走らせる。こんなに暗かったっけ? と口に出てしまうほど、街を離れた瞬間、道路は真っ暗になった。しかしこれはよいサインだと僕には感じた。これならわずかな灯りや本州なら虫の集まらなそうな街灯でもクワガタが集まってくる気がしたからだ。

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サキシマハブにも会うことができた。これぐらいに距離でいいかな

その予想が当たっていたかどうかはわからないが、スタートして何本目かのライトの下で道路の縁石にしがみつく黒い物体を発見した。サキシマヒラタだ! メスだった。メスとはいえこれもあっさりとミッションコンプリート、今回のわれわれはなんだかノッテいた。
あとになって気付くのだが、縁石にしがみついたり自販機の下に隠れたりできたクワガタは幸運にも(?)われわれに捕獲されて、地面を這ったりひっくり返っていたであろうクワガタは、どうやらそのほとんどがオオヒキガエルの餌食になっていたようだった。メスを何匹か捕まえたのち、カエルにやられたのか足が何本かない小ぶりのオスを見つけたころに、まだフレッシュな胴体だけ食われてしまった大きなオスの死体を見つけたときは思わず叫んでしまった。

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ひとまず捕れた虫をキープしておくために空気穴を開けたクワ仕様のタックルボックス

ダイシのオスが欲しい

クワガタには小歯型(しょうしけい)、中歯型(ちゅうしけい)、大歯型(だいしけい)というのがあって、小さいころクワガタを捕まえたことのある読者さんならわかると思うが、同じ種類でも体の大きさに比例するように歯の形が違うのである。そしてやっぱりクワガタの花形はオス、それも「ダイシ」のオスなのだ。雨がパラつき始めたころにはオスは3匹。しかしそれらはショウシとチュウシだった。
到着した日の晩からお目当てのクワガタに会えただけでも儲けもののはずなのだ。しかし釣り人よろしく採集者も欲張りなもので、ここまできたらダイシに会いたい。オオヒキガエルにはもう数10匹は会った気がする。

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実はお初にお目にかかったヤシガニ、かっこいい

宿も通り越し、ルッキング採集のランガンはエキストララウンドへと突入した。雨が強くなったり止んだりを繰り返す。こうなると新たにクワガタが飛来するとは考えにくいので、まだライトの周りでぼやぼやとしている虫に望みをかけるしかない。時間との勝負だ。
根気よくランガンを続け、結局、森を抜けて海からの風が当たる道路沿いまで来てしまった。なんだか風向き次第ではもう可能性がなくなってしまった気がして諦めかけたのだが、何本目かのライトでよいサイズのメスを見つけることができた。大袈裟に聞こえるかもしれないが、目当てのオスではなかったものの首の皮一枚繋がった気持ちでホッとした。ところが粘った甲斐があったのか、その次に立ち寄った自販機の灯りの下に何かどしっと黒いモノが居座っていた。まるでザリガニが爪を振り上げたように、何故かすでに臨戦態勢のオスが僕らを待っていたのだ!

最高の旅には笑顔が大切

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たまらない光沢と質感、悦である

宿に着き濡れた髪を拭きながら、ペスの持っていた釣り用のメジャーで計測するとさっきまで巨大に見えていたダイシは55mmもなかった。採集でも70 mmを超えるサキシマヒラタのなかでは決して大きくないが、そのダイシはこの夜を最高の形で締めくくってくれた。「最高やなぁ」。2人とも何度もつぶやく。タナゴモドキにサキシマヒラタ。そのほかにもさまざまな生き物に会えた1日だった。

2日後に合流することになっている石垣の友人にメールをすると、この魚と虫の写真を見るのが楽しみだと返信が来た。梅雨真っ只中だった今回の旅は、このあとも天候に悩まされながら釣りと撮影はそこそこ成功を納め(たつもり)、毎日八重山そばを食べて、久しぶりに顔を合わせるメンツで飲み交わした(ペスはコーラ)。そして、一番大きかったダイシと大きなメスのペアと、翌日ラブホと名付けたやたらと明るい宿(ではないのだけど)の看板で見つけたもう1匹のダイシのペアを自分用に持ち帰ることもできた。雨には泣かされたが結果は最高の旅だった。

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南国のビールは軽めで、風土に合っている気がする

夜な夜な懐中電灯を片手に交差点や自販機の周りをウロウロするよそ者は、地元の人たちからすれば迷惑な人間でしかなかったかもしれないが、素直に「クワガタを捕まえに来たんですけどこの辺いないですかね?」と聞いて回る38歳児は挨拶や笑顔は忘れないようにしたつもりだ。
結構この辺のテクニック(と呼ぶといやらしいが)と、コミュニケーションの大切さは僕もペスも国内外の旅を通して学んできた。これが挨拶もなければ笑顔もないと、よそから来た人間は驚くほどかんたんに嫌われてしまうし、ひいては釣り人や旅行者、今回で言えば虫捕りをする人たちのイメージすらかんたんに悪くしてしまう。こんなにも幸運に恵まれてくれた旅だったからこそ一層「終わりよく」したかったとも思う。

キャップにマスク、メガネ、ヘッドライトという準コンビニ強盗みたいな客が来たときはだいぶ怪訝そうだった店員さんが、コーヒーを待つ間いろいろと虫の話を交わしているうちに笑顔になり、聞いてもいないのに、小さいころクワガタを捕まえた話をしてくれたときがこの旅のハイライトかもしれない。

 

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ショータ・ジェンキンス
プロフィール:ショータ・ジェンキンス
栃木県在住。国内のトラウトフィッシングから海外の釣りまで、人生を豊かにするライフスタイルとしての釣りを日々模索し発信しているフィッシングピーターパン。PIKE STREET MARKETディレクター。ひと×コト×Sakana栃木PRアンバサダー。
サポートメーカー:Huerco、BIGFISH1983、Rマジックテスター。VARIVASフィールドモニター、Patagoniaプロセールスプログラム。
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