学校で話したくなるお魚雑学 No.12 魚の歯にまつわるもろもろ その1
果たして尾長グレはハリスを噛み切れるのだろうか?
という話

魚釣りをするうえで最も大切なのはエサ釣りでもルアーフィッシングでもターゲットたちの食性を知ることだ。人間と同じように肉好きもいればベジタリアンもいるし何でも口にする雑食性が強い魚もいる。そんな食性を顕著に表わしているのが魚たちの歯である。今回からは魚の歯にまつわるもろもろ。まずはグレに関してHEATスタッフFの思うところを書いてみたい。あくまでも個人的な見解なので異論、反論があるかもしれないが、そのあたりはご容赦を。

ブラシのような歯を持つメジナ科の魚たち

グレすなわちメジナ科の魚たちは基本的に海藻食だ。主食は岩肌にへばりついた藻類。口を岩肌に押し当てて、こそぎ取るように食べる。そのためメジナ科の魚の口には毛先が短く硬いブラシのような歯がびっしり生えている。その歯1本1本の先端は三尖頭、すなわち3つに分かれ効率よく藻類を掻き取れるようになっているのだ。

日本にいるメジナ科3種ではオキナメジナ(牛グレ、スカエース)が特にその食性が顕著で上顎歯、下顎歯とも3~4列も並んでいる。次いでメジナ(口太グレ)は2~3列、クロメジナ(尾長グレ)は、たった1列である。どういうことかというと、3種内ではオキナメジナが最も藻食性が強く、逆にクロメジナは最も雑食の傾向が強いということである。魚類学的には日本も含めた東アジア海域にいるメジナ科の魚はオキナメジナからメジナ、さらにクロメジナへと進化したのではないかといわれているのだ。

魚類に限らず動物はある程度、食性に幅がないと生きていけない。メジナ科の魚が藻類しか口にしないとなると、何らかの理由で藻類が生息圏からなくなってしまった場合、その種は絶滅してしまうからだ。海藻食のグレがエビ類、オキアミ、ゴカイなどでも釣れるのはそのためである。

クロメジナ
クロメジナ(尾長グレ)の歯は上下とも1列。メジナ科のなかで最も雑食性が強いのだろう
メジナ
メジナ(口太グレ)の歯は上下とも2~3列でまだまだ藻食性が強い。地方、季節によってアオサやノリでのグレ釣りが盛んだ
オキナメジナ
オキナメジナ(牛グレ、スカエース)の歯は上下とも3~4列で3種のなかでは最も藻食性が顕著。このオキナメジナからメジナ、クロメジナへと進化したと考えられている

指で触っても痛くない尾長グレの歯なのに……

いずれにしてもメジナ科魚類の歯はそんなに硬く鋭いものではない。釣り上げたグレの歯を指で触ってもケガをすることはない。スタッフFなどはハリが飲み込まれた場合、口太グレでも尾長グレでもハリ外しのように人差し指を突っ込んでハリを外している。

そこでスタッフFは「尾長グレにはハリを飲み込ませるな」「尾長グレにハリを飲み込まれたら細いハリスでは切られることが多い」という磯釣りの定説に疑問を感じる。たとえばグレ釣りの外道であるイスズミ科の魚たちのように鋭い歯(メジナ科とは違って単尖頭)を持っていればそのとおりだし、実際にハリスをチモトで噛み切られることが多い。

歯よりも鋭いエラブタのエッジが問題だ!

しかし口太グレより雑食性が強いとされる尾長グレの歯でも、そこまで鋭くない。そこで気が付いたのがエラブタである。尾長グレのエラブタのエッジが実は口太グレにくらべ硬くカミソリのように鋭いのだ。尾長にしても口太にしても釣り上げたグレを観察すると、口元からエラブタに向かってハリスで擦れたような跡が付いていることがある。そこで考えた。「これこそが尾長グレにハリスを切られてしまう原因ではないのか?」と。

尾長グレと力勝負、魚の走る方向に対して完全な綱引き状態になった場合、当然ハリスがエラブタに擦れることが多くなる。瞬間的にはエラブタ内側にハリスが入ってしまうこともあるだろう。そのときハリスが細ければプッツン! とスタッフFは思うのだ。もちろん尾長グレのスピードとパワーがあってのことなのだが……。

険しい地形の磯
険しい地形の磯。海中にも同様のギザギザがあるはず。一気に根に向かって走る尾長グレには早アワセこそが釣り人が主導権を握るための第一歩なのであって、ハリを飲み込ませないためではないのかも……

細ハリスを使う磯のフカセ釣りで大きい魚を掛けた場合、真っ向勝負を避け、魚の走る方向に竿を倒して綱引き状態にならないようにするのが鉄則。しかし泳力に半端ではないスピードがあり機敏な尾長グレに対しては、どうしても竿操作が間に合わず、瞬間的に綱引き状態になることが多くなる。そのときに無念のハリス切れ。「尾長グレにはハリを飲まれないよう早アワセ」というのも、素早くハリを掛けることで1mでも2mでも尾長グレと根や岩、障害物との距離を確保し、少しでもハリスが根ズレで切れるリスクを回避するという意味が大きいのかもしれない。