
周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第22回は、砂浜やゴロタ浜からねらう渚での釣りに関して。浜からといえば代表的なものに投げ釣りがあるが、今回はミャク釣りやウキ釣りといったライトなエサ釣り。なかには、かつてブームになりかけたものなども含め、面白い釣りの記憶をたどってみたい。
渚といえば山形の「庄内釣り」
日本海側、山形県の庄内地方に伝わる広大な砂浜での「庄内釣り」と呼ばれるスタイルがる。古くは武家のたしなみとして盛んになったと聞いたことがあるが、現代では磯釣り同様にオキアミを撒き、波打ち際から少し沖の掛け上がり付近まで寄せてきたクロダイをミャク釣り風にねらう釣法と記憶している。

1990年代、「これは面白い」と思い、和歌山県中部のサーフ(印南~南部あたり)で「渚釣り」と称して数回試したことがあったが、結果は出せずじまいだった。ところが、それから10年ほどして興奮する出来事があった…。
磯止めの日に高知県のゴロタ浜で快釣
ある日、徳島県南部に磯釣りに出かけたのだが、思いのほか波が高く渡船が欠航になってしまった。仕入れたエサ(オキアミ)を捨てるわけにもいかず困っていたら、現地の友人がゴロタ浜に行こうと誘ってくれたのだ。
釣り場はワンドの奥に位置いているので、「これぐらいの波がちょうどよい」「この波がないと釣れない」という。その言葉を信じ案内されるままに、高知県に入ってすぐのゴロタ浜で竿を出した。
釣り方はウキ下こそ矢引ぐらいと浅いが、磯フカセそのままの釣り方。言われるがままに釣ってみると、30~40cmの立派なグレ数尾に良型のヘダイのおまけ付きで感激したことを覚えている。庄内釣りのように砂浜ではなかったが、個人的には広い意味での「渚釣り」初成功例であった。

その後、淡路島南部の灘海岸。ここでもサーフからグレをねらったことがあり、地元ショップのスタッフに誘われて半信半疑で竿を出したところ、なんと2本バリ仕掛に2尾のグレが同時にヒット。どちらも30cmクラスで淡路島としては良型だった。

大阪府・和歌山県境のゴロタ浜では古くから……
考えれば近畿地方にも古くから「渚釣り」と呼んでもよい釣りがあった。大阪府と和歌山県境付近にある大川峠のゴロタ浜。ここでは古くから浜からの紀州釣りやカゴ釣りが盛んだった。高知県での体験と共通するのは、足下からすぐ水深がある点。一方、トライしたものの釣果の出なかった和歌山県中部での場所は、その意味では渚釣りに適していなかったのだろう。

チヌ、クロダイに話をしぼれば、いまやサーフはルアー釣りの主力ポイントのひとつである。いわゆるチニングでは当たり前のように誰しも竿を出し、現在(昔はチヌがルアーでねらえるということも知られていなかった)では不思議に思う人はいないだろう。


煙樹ヶ浜では知る人ぞ知るキスのウキ釣り

余談だがサーフのキス釣りといえば、まず投げ釣りと相場は決まっているが、和歌山県中部の煙樹ヶ浜浜では地元アングラー御用達の「キスのウキ釣り」がある。キスが波打ち際付近まで寄ってくる早朝の時間帯に限られるが、イシゴカイをエサにウキに出るアタリも明確で、グリグリっという小気味よい引きが楽しかったことを思い出す。

以前にこのコーナーでも紹介した「サーフトローリング」も含めて、サーフというフィールドの懐の深さを改めて感じる。とにかく周囲を海、多くのサーフに囲まれた日本、思いもよらないナイスな釣りが待っているのかもしれない。