
周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第19回はコブダイ釣り。近年は某新喜劇の「おでこ」が出た男優さんに対して、「コブダイ、早く海に帰れ」といういじりで釣りファン以外にも多少馴染み? になったが、まさしく眼の上の頭部が出っ張った(老成の雄のみ)ベラ科の魚。大きいもので全長1mにも達する大型魚だ。
かつては磯の底物
イシダイ釣りのゲスト魚
ベラ科コブダイ属の「コブダイ」は下北半島(青森県)、佐渡(新潟県)以南の沖縄県を除く海域に生息し、貝類や甲殻類を捕食することから、古くは底物、イシダイ釣りのゲスト魚という扱いにされることが多かった。とにかく怪力の持ち主で、古い磯釣りの教科書には、その特徴として「コブダイのひとのし」と記述されることが多く、アタリと同時に一気に竿を豪快に持ち込む様が迫力満点に表現され、それがコブダイの最大の魅力だったように思う。

いわゆる「磯の底物釣り」のターゲットとして、そこそこのステータスを得ていたが、イシダイ、イシガキダイ、クエなど底物スターたちに比べると、一段もしくは二段落ちというイメージは否めなかった。ただ、ほかの底物スターたちが太平洋岸や日本海岸など外洋に面したエリアでのみ釣りが成立したのに対し、たとえば西日本では瀬戸内海でも釣りが可能だった……というより、瀬戸内海では釣れる魚のなかで特別に大きなものだったのだ。
ねらう人はそう多くはなかったものの、一定程度の人気は得ていたようだ。
ちなみに関西ではコブダイのことを古くからカンダイと呼び「寒鯛」という漢字が当てられる。黒潮域よりも水温が低い瀬戸内海や日本海に多く見られたことから、「寒い地域のタイ」というのがネーミングの理由だと思われる。
瀬戸内海の家島で憧れの怪魚だったころ…
私が少年時代によく釣りに出かけた兵庫県の播磨灘に浮かぶ家島諸島でも、コブダイはひときわ目を引いた。利用していた渡船民宿の壁には、メータークラスの迫力ある怪魚の魚拓が何枚も飾られており、子ども心に憧れていた。その後、父親にねだって底物(イシダイ)タックルを手に入れ、ワイヤー仕掛で何度か家島諸島の磯に渡ってねらってみた(エサはサザエ)ものの、わずか一度だけアタリを見ただけで釣り上げることはできなかった。


成人し釣り雑誌社の編集部に身を置きだしたころ、誰かが取材先から特大サイズのコブダイを持ち帰り、社内でさばいて刺身を口にしたことがあった。しかし「それほど美味しい魚ではないな」という印象で、個人的にあえてコブダイをねらうことはなくなったし、釣り界全体でも、コブダイがメインステージに登場することはほとんどなかったように思う。
今では、近隣の防波堤や護岸から手軽にねらえる大型魚
そんなコブダイが近年、手軽にねらえる大型魚として脚光を浴びるようになった。それもわざわざ磯に出る必要もなく、全国各地の防波堤や護岸から比較的カンタンにねらえるようになったのだ!
私たち釣り人がわざわざ磯に出なくても釣れることを知らなかっただけなのか、それともコブダイの個体数が増え、手軽な防波堤や護岸からでも釣れるようになったのかは定かではないが、とにかくコブダイは、それほど珍しい魚ではなくなったというのが近年の印象だ。

たとえば関西なら大阪湾岸、播磨灘沿岸、淡路島など、どこにでもコブダイはいるといというイメージで、実際に釣果も上がっている。釣り方も昔のようにイシダイタックルを持ち出すまでもなく、磯竿なら4号ぐらい、ルアータックルなら長めのハードアクションのもの。ラインはPE3~4号で、ハリスはフロロカーボン6~8号。そして、グレ用など磯バリ10~12号を結ぶ。この仕掛でブッ込むのもありだが、底すれすれのタナでウキ釣りすると根掛かりが少なく楽である。
エサは大型の海エビやスーパーで購入できるバナメイエビなどでよいといった具合で、広島あたりで盛んな「かぶせ釣り」と呼ばれる方法なら、マキエやサシエにはカキを使っている。



このように釣り場、釣具、エサとも昔のようにハードルが高くなくなった現在では、日本各地にコブダイをねらうアングラーがいて、温暖化の影響もあってか近年は北海道の道南などでも釣果が上がっているようだ。食味に関しては評価が分かれると思われるが、豪快なファイトが楽しめるのは間違いない!