
INDEX
- ● 色や模様で身を守る
- ・目くらまし効果
- ・威嚇と防御
- ・群れでの保護効果
- ● 繁殖とコミュニケーション
- ● 環境適応と成長による変化
- ● 人間との関わり
水中を泳ぐ魚たちは、驚くほど多様な色や模様を持っています。青や赤、黄色などの鮮やかな色彩や縞模様や斑点などの特徴的な模様には、単なる美しさのためではなく、捕食者から身を守ったり、仲間とコミュニケーションを取ったり、さらには繁殖において重要な意味を持っているのだそうです。では、魚の色や模様が持つ役割や、それが生存にどのように影響するのでしょうか?
色や模様で身を守る
目くらまし効果
魚の多くは、敵から身を隠すために周囲の環境と同化する能力を持っているそうです。だとすると、「カレイ」や「ヒラメ」のような底生魚は、砂や岩の色に合わせて体の色を変えることで地面の一部のように見え、敵に見つかりにくくしているのかもしれませんね。

さらに、一部の魚は「カウンターシェーディング」と呼ばれる手法を用いて身を守っていると考えられています。これは、体の背中側が暗く、お腹側が明るくなることで、水中での光の反射を利用して姿を目立たなくする手法。
このカウンターシェーディングの効果は、水中から魚を見上げたときにとくに顕著です。魚のお腹側が明るいことで海面のきらめきに溶け込み、捕食者の目をくらませる効果があるとのこと。逆に、上空からねらうカモメなどの捕食者に対しては、背中側が暗いことで深い水の色と同化し、目立ちにくくなると考えられています。こうした巧妙な色彩戦略により、魚は敵の目を欺き、生存率を高めているのかもしれません。
今まで気にしたことがありませんでしたが、確かに「アジ」や「イワシ」「サバ」など海面付近を泳ぐ魚には、背中側が暗く、お腹側が白や銀といった明るい配色のものが多い…。「この色具合は身を守るための重要な役割だったのか!」と目からウロコでした(魚だけに)。


威嚇と防御
ところで、自然界では派手な色を持つ生き物は危険だというのはわりと知られている話です。たとえば、「ハチ」や「カエル」にも鮮やかな黄色や赤の「警戒色」や「警告色」と呼ばれる色を持つものが見られます。魚の世界でも同様の傾向があり、一部の魚は自らの色を使って捕食者を威嚇しているそうです。
「ミノカサゴ」や「オニオコゼ」がその代表例で、毒を持つ魚は派手な色や模様をしており、敵に「私は危険な存在だ!」とアピールしていると考えられています(諸説あり)。陸上の生物と同様に、警戒色や警告色といった派手な色を持つことで、敵に攻撃をためらわせる効果を利用しているというわけです。

また、一部の魚は「目玉模様(アイスポット)」を持っており、これにより敵を欺くと考えられているようです。たとえば、写真の「オジサン」や「ベラ」の仲間には、尾ビレの近くに大きな目のような模様があり、これが本来の目ではなくとも敵を混乱させる効果があるといわれています。
この「偽の目」の模様は、捕食者が「どちらが頭部なのか」を見分けにくくし、不意打ちを避ける助けになるケースがあるとのこと。また、一部の魚はアイスポットを利用して捕食者の攻撃を受ける部位をコントロールし、致命傷を避けることもできるとも考えられているようです。

群れでの保護効果
魚が群れを作ることも、身を守るための重要な戦略の1つだそう。たとえば、「イワシ」や「アジ」などの小型魚は大群を作ることで、個々の魚が捕食者にねらわれるリスクを分散させているといわれています。この「リスク分散」の効果によって、単独でいるよりも生存率が高まるといった効果があるとのことです。

さらに、魚の群れは「幻影効果」を生み出し、同じ色や模様を持った多数の標的が移動することで、捕食者は標的を絞って1尾の魚を追跡することが難しくなる可能性が高まるそうです。また、群れが素早く方向を変えたり密集して泳ぐことでも捕食者は標的を絞りにくくなるようです。
このような群れの戦略は、児童文学「スイミー」にも描かれています。スイミーは小さな魚たちが集まり、大きな魚の形を作ることで捕食者に対抗するという物語ですが、現実の海の中でも、小魚たちは集団行動をとることで、大型の捕食者に対する防御策として機能していると考えられています。色や模様と群れの動きが連携することで、魚たちは生存率を高めているといえるかもしれません。
繁殖とコミュニケーション
魚の色や模様は、繁殖期においても重要な役割を果たすという話を聞いたことがありますか? たとえば、「ウグイ」は繁殖期になると「婚姻色」と呼ばれる特徴的な体色の変化が見られることがあります。オスは体の一部が鮮やかな赤色に染まることがあり、これがメスに対するアピールや縄張りを示す行動と関係しているそうです。


出典:写真AC
また、「ベタ」は「フレアリング」と呼ばれる行動でコミュニケーションを取るともいわれています。
もともと闘魚として知られるベタは、相手を威嚇するためにヒレを大きく広げて美しい姿を見せることがあります。しかし、このフレアリングは単なる威嚇だけでなく、求愛行動の一環としても行われるときがあるといわれ、オスはメスに対して鮮やかなヒレを広げることで、自らの健康状態や魅力をアピールし、繁殖の成功率を高めているという可能性もあるそうです。

このように、色や模様は魚にとって単なる装飾ではなく、生き抜くための重要な手段となっているようです。繁殖やコミュニケーションにおいても、魚たちは自らの色彩を最大限に活用しながら環境に適応し、種を存続させているのかもしれません。
環境適応と成長による変化
魚の模様は一生同じとは限らず、成長に伴って変化するものもいます。たとえば、「ミナミハコフグ」の幼魚は、自然界では「警戒色」とされる鮮やかな黄色の体に黒い斑点を持ち、多くの捕食者に「危険な生物」と誤認させる効果があるのではないかと考えられているようです。これにより、敵に襲われにくくなる可能性があるという話です。
さらに、この模様には「目をカモフラージュする」役割もあるそう。魚にとって目は、ひじょうに重要な器官である一方で捕食者にとってはねらいやすい弱点ともなるため、「ミナミハコフグ」の幼魚の体には黒い斑点が散らばっており、本当の目の位置を分かりにくくしているのではないかということです。敵が攻撃する際に「目を突かれない」ようにする効果があるというわけです。身体中にアイスポットがあるということになりますね。

しかし、成長すると体色は次第にくすんだ黄褐色や青みがかった色へと変化し、黒い斑点も薄れていくことが知られています。これは、成魚になると幼魚ほど外敵にねらわれにくくなるため、目立つ必要がなくなるからだそうです。
このことから、ミナミハコフグの幼魚の模様は、敵から身を守るための巧妙な仕組みとして進化してきたのではないか? と考えることもできますね。
例に挙げたミナミハコフグ以外にも、成長に伴い模様や色が変わる魚は多くいます。魚の模様の変化は単なる個体差ではなく、環境への適応や生存戦略の一環として重要な役割を果たしている可能性があるといえるでしょう。
人間との関わり
ところで、魚の色や模様は人間の暮らしとも深く関わっています。観賞魚としての美しさが評価され、鑑賞の目的で多くの魚が飼育されてきました。たとえば、「キンギョ」や「ニシキゴイ」はその代表で、独特の色や模様が楽しめることから、古くから愛されてきました。

さらに人間は、より美しい色や模様を持つ魚を生み出すために品種改良も行ってきました。「メダカ」や「グッピー」は選択的に交配されることで、鮮やかな発色や独特のヒレの形が生まれ観賞価値が高められてきました。このような改良により多様な色彩の魚が作られ、世界中で人気を集めているのです。
今回は、魚の色や模様には「カモフラージュ」「威嚇」「繁殖」「群れでの保護」など、さまざまな役割があるという話を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
自然界ではこれらの特徴が、恐らく生存戦略として進化してきたのではないか? と考えられているというわけです。今後、観賞用としての美しさだけでなく生態的な意味を知ることで、魚を見る楽しみがさらに深まるかもしれません。次に水族館や釣り場で魚を見るときには、ぜひその色や模様の意味を考えてみてはいかがでしょう。
出典:
綺麗なやつほど毒がある | 北里アクアリウムラボ.
目玉模様 | 海の写真のボルボックス.
第11回 小さくて大きな可能性をもつ群知能 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト.
ウグイの話/水産試験場 | 長野県公式ホームページ.
ベタのフレアリングスティック!! | 寒川水族館.
幼魚は黄色に黒のドット柄のミナミハコフグさん | Marine Life Log.