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「釣り餌レストラン」第5回のメニューはイカナゴとキビナゴ。ともに食用として有名な小魚だが、お魚たちも大好きなエサである。メバルなどの小魚からヒラメ、タチウオなどの中型魚、ハタ類やハマフエフキなど大型魚まで、その味に惹き付けられる魚たちには限りなし。グルメなフィッシュイーターたちの大好物メニューだ。
【イカナゴ】瀬戸内東部のソウルフード!
イカナゴは伊勢湾より東でコウナゴと呼ばれるイカナゴ科イカナゴ属の小魚だ。瀬戸内東部にあたる大阪湾から播磨灘では早い年で2月末、遅くても3月中旬までには解禁されるイカナゴ漁を待ちわびているのは、関西でも特に神戸市の西部から明石市にかけて住む人々だ。醤油にザラメ砂糖、酒、水飴、土生姜などで炊きあげるイカナゴの「くぎ煮」は明石海峡沿岸部のソウルフードなのである。しかし近年の不漁続きでキロ当たり2000円、3000円と小売値が沸騰、何kgも……何回も……「くぎ煮」を炊いては親戚や知人に配り回るという年中行事をやめてしまったご家庭はわが家だけではないと思う。
そんなイカナゴは人間たちだけでなく魚たちにとっても最高のごちそうである。早春、大阪湾や播磨灘の海中にイカナゴがあふれかえると、多くの魚たちの主食はイカナゴになり、それ以外のエサには見向きもしなくなるほどだ。特にメバル釣りのエサとして抜群で数cmまでの新子を生きたままハリにチョン掛けすると、一気にアタリを送ってくれる。
かつて春の時期、小豆島の離れ磯にメバル釣りに出向いたことがあった。小さな磯で両端に分かれて釣りをしたのだが、私が竿を出していた反対側ばかりにアタリがあり良型が入れ食い。その原因はイカナゴを生かしておくために磯際の海中に吊してあった網目の細かいスカリからイカナゴがポロポロ逃げだし、自動的にマキエになり、そちらばかりにメバルが集まってしまったからだ。
生きたイカナゴをエサにしたヒラメ釣りで鳴門海峡の遊漁船に出かけたこともあった。おそらく6月のことだったので、その年の新子も6、7cmにまで大きくなっていた。これを1尾チョン掛けしアタリを待っていると一気に竿先が押さえ込まれる。普通、アジやイワシなどの生き餌を使った釣りでは「ヒラメ30(秒)」という遅アワセがセオリーだが、イカナゴ使用時はそんなセオリーなどどこ吹く風。アタリ即アワセで、がっちりハリ掛かりしてくれたのだった。とにかくイカナゴの食い込みのよさ、その威力を目の当たりにした釣りだった。
さて2019年も間もなくイカナゴ漁解禁。その好不漁いかんでわが家の食卓も釣りの状況も大きく左右されるのは間違いない。久しぶりに炊きたてご飯の上に「くぎ煮」を遠慮なく乗せて一気にかき込みたいものである。ちなみに夏の風物詩、大きく育ったフルセを生姜醤油でいただく「素焼き」も大好物なんだな、これがまた。
【キビナゴ】大阪湾で定番の南国フレイバー
キビナゴといえばタチウオの陸釣りのエサとして当たり前すぎるほど有名である。冷凍のパックものが、ほとんどの釣具店、エサ店で手に入る便利なエサだ。小ぶりのものをハリに刺してウキ釣り、大きめをテンヤに巻いて引き釣りで使用する。古くから引き釣りの主力エサであるドジョウにくらべ身が軟らかくエサ持ちが悪いという欠点もあるが、なにせキビナゴは安価なので引き釣りでも使用する人が多くなった。
近年はあまり釣れなくなったが、初夏、大阪湾岸の防波堤ではテーラという道具にキビナゴをセットすればスルメイカがねらえるし、最近では磯からハタ類やハマフエフキの大物ねらいにも使用される。特に沖縄ではキビナゴをスルル、スルルーと呼び、フカセ釣りでウキ止めなしのスルスル仕掛を用いてキビナゴをマキエ、サシエにも使用する「するするスルルー」という釣り方が流行のようだ。
高知県西部、鵜来島や沖ノ島では早春になると各港内にキビナゴの群れが入り込んで来るという。そのキビナゴを追って入ってくるのが特大のアオリイカ。一部エギングファンには有名な話で大きいもので5kgクラスというからたまらない。
キビナゴはニシン科キビナゴ属の小魚でマイワシやウルメイワシに近い種であるが主に琉球列島、南日本に分布する。日本一の漁獲を誇るのは鹿児島県だろう。タチウオ釣りのエサとして消費量日本一? の大阪湾などでは漁獲対象にはなっていない。もちろん鹿児島では食用である。かつて鹿児島県甑島の宿で女将さんが数cmほどのキビナゴを1尾1尾指で開いては何十尾も皿に美しく並べてくれたキビナゴの刺身は忘れられない味だ。
近年は関西のスーパーでも生のキビナゴが販売されているので、一晩塩漬けにしたものをタチウオ釣りに使用する人も多くなった。冷凍物にはない身の締まり具合と体表の輝きでタチウオの食いは最高。ぜひお試しあれ!
(次回のお品書きは生きアジとドジョウの予定です)