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冷たい季節風が波しぶきを舞い上げ、とてもではないけど海岸に1分たりとも立っていられる状況ではない…。ましてや荒磯で竿を出すなんて…と思われる方も多いかもしれませんが、今こそメジナ(グレ・クロ)釣りには最高の季節です。そんなわけで厳寒期のメジナ釣りについてお話しさせていただきます。
釣り人に人気のメジナは2種類
メジナの近縁種としてはメジナ、クロメジナ、オキナメジナの3種類がいて、とくに釣りモノとして人気が高いのはメジナとクロメジナの2種類です。メジナは地方によって呼び名が異なり、関西ではグレ、九州ではクロと呼ばれています(ほかにもいろいろな呼び名があります)。
磯釣り師の間ではメジナのことをクチブト、クロメジナのことをオナガと呼んだりもしますので、先ほどの地方名と合わせると、関東ではメジナを「クチブト」「クチブトメジナ」、関西以西では「グレ」「クチブトグレ」と呼び、クロメジナは関東では「オナガ」「オナガメジナ」、関西以西では「オナガグレ」などと呼んでいます。
関東の磯釣り師でもメジナのことをグレと呼ぶことが多いのですが、これは関西以西で流行り出した競技会が関東にも普及してきた際にグレという呼び方も広まったという説や、専用のタックルの名称の一部や用途にグレという表記があったなど諸説あります。
なぜこの時期がベストシーズンなのか?
メジナとクロメジナの外見は一見似ていますが、実際には大きく異なっており、産卵期も違います。メジナのベストシーズンが厳寒期であるのは、この産卵期の違いによるものなのです。
表の通り、クロメジナの産卵期が11~12月であるのに対してメジナの産卵期は2~5月で、産卵を控えたメジナは岩に付着した好物の海苔類を食べるため磯の近くに集まってきます。これら海苔類の多くは海水温度が低くなると発育が始まります。メジナの歯を観察するとよく分かるのですが、ブラシのような構造になっていて、岩に付着した海苔類をはぎ取って食べるのに適しています。
ちなみにメジナが好んで食べている海苔のなかにハバノリという種類があります。ハバノリはとても高タンパク(水分を除いた状態)で、かつ、彼らの好むアミノ酸が豊富に含まれたスーパーフードなのです。
メジナ釣りにはオキアミのマキエとサシエを多く用いていますが、かつてはイワシのミンチにイワシの身エサ、琵琶湖で水揚げされた通称「湖産エビ」などが使われていました。
オキアミが最初に釣りに使われたのは1970年代ですが、ほかの水産物と比較すると安価であることや、拡散性が強いこと、使い勝手がいいなどの理由により1980年代になると急速に普及しました。
ただオキアミをサシエにした場合、暖かい季節であると身が柔らかいためエサ取りと呼ばれるフグやスズメダイ、時として人差し指くらいのサイズの小メジナにあっという間に奪い取られてしまうため、本命のメジナがいるタナまでサシエを届けるのはとても難儀してしまいます。
そんなエサ取りたちの多くは低水温期になると活動が弱くなり、オキアミを横取りされる心配も少なくなります。そのうえ産卵を控えたメジナは身に脂も乗って食味もよくなります。そんな理由から、厳寒期がメジナ釣りのベストシーズンといわれているのです。
ところで、暖かい季節を迎え産卵直前になると、メジナの食味は徐々に落ち、産卵後には身が白く濁り今一つな味わいとなってしまいます…。
良型が近くにいるものの、冬のメジナは手ごわい…?
もともとメジナは高水温が苦手な魚です。秋も深まり海水温が低下し始めると、磯近くの浅場でも活発にエサを食べるようになります。晩秋から初冬にかけてメジナのシーズン開幕です。ところが、早いうちはどこでも口を使うというわけではないようです。
メジナを大きく2つに分けると、メジナは大きく2つのグループに分けることができます。一つはいわゆる「居着き」と呼ばれるグループで、磯際で食ってくる傾向が高く、魚体は全般に黒っぽいのが特徴です。ときおり大型が食ってきますが単発的な釣果が多く見られます。
そしてもう一つは、沖から移動しながら接岸してくる「回遊」グループで、潮通しがよく、ある程度水深のある場所から活発に口を使うようなグループです。魚体は鮮やかなブルーであることが多く、数多く食ってきますが大型は少ない傾向にあります。しかしながらこの回遊グループも、産卵期が近づくにつれ数もサイズもアップしてきます。
その理由は、彼らが好む海苔類が切り立った岸壁よりも日当たりがよく、なだらかな海岸に多く発生しているからです。くわえて、いよいよ産卵というお腹が大きくなったメジナは、普段はあまり回遊しないような潮の緩い場所に集まるためです。そのため普段はメジナのポイントとして魅力的でない浅場やワンドの奥で、思わぬ良型に巡り合う可能性が高くなるのです。
とはいえ、年間で最も海水温が低くなるこの時期のメジナは、手ごわい相手であるということに間違いはありません。なぜ海水温が低くなるとメジナねらいが難しいのか? その要因についてお話ししましょう。
まず筆頭に挙げられることは、メジナが魚類であって魚類が変温動物であるということです。潮流はもちろん、季節風や降水、降雪などの要因で急激な水温の変化が起きた場合、極端に食いが悪くなることがあります。急激な水温低下がメジナにダメージを与えることは読者のみなさんもよく知っているところでしょう。
反対に、黒潮や湧昇流の影響による急激な水温上昇もメジナの活性を下げ、エサ取りの活性が高くなるため、釣りにならないこともあります。
次に水温や潮流は好適でも、強い季節風によりねらった釣り場に入れないことがあります。風裏になるような釣り場だからと油断していると、それまでの強風が収まった途端、ウネリがくることもあるので要注意です。
また、透明度の高さも釣りづらい要因のひとつです。海水温が低下すると透明度が高くなりますが、海中が明るいとメジナのタナは深くなり障害物の際に集まるようになります。エサをねらいのタナに届けるのが難しく、同様にメジナを誘い出すのも難しくなります。
そして一番多く見られる要因として、季節風を避けられる人気釣り場には釣り師が多く集まってしまうことが挙げられます。週末の人気ポイントともなると狭い場所に大勢が竿を出すので、思うように釣りができない、ねらったコースを流せない、マキエの調整が難しいなど、困難が立ちはだかります。