春たけなわ。温かくなってきたら夜釣りシーズン開幕だ。今回からシリーズでお届けするのは待ちに待った「夜釣り」の楽しみ方のイロハ。魚種を限定するワケではないので、釣り方やテクニックは当HEATの別コーナーにお任せするとして、陸上から夜釣りを快適かつ安全に楽しむためのノウハウをピックアップ。
まず第1回は「ナゼ釣り人は夜釣りをするのか?」から話をすすめよう。
1.魚たちの生態から考えてみよう
「夜釣れない魚は意外と少ない」
いかにも健康的で優等生的なイメージがある日中の魚釣りとくらべ、「夜遊び」にも通じる「夜釣り」は、どちらかというと一般的には不健康で暗いイメージがあるのかもしれない。しかし夜釣りファンは実に多い。「昼は釣りをしないけど夜釣りは別」という人もいるぐらい。太陽が沈み手元も見えない暗い時間ほか、夜釣りは昼釣りにくらべ明らかにリスキーではあるのだけれど、釣り人が夜釣りに熱くなるのは、それなりの理由があるのだ。
まず対象魚の生態から説明しよう。暗い夜間は人間から海中が見えにくいのと同様、魚たちからも釣り人の姿が見えにくく警戒心が薄れる。明るい時間はおっかなびっくりエサを食べていた警戒心が強い魚たちも、暗い夜になると躊躇(ちゅうちょ)なくハリが付いたエサに飛びついてくる。
その昔、警戒心が強いチヌ(クロダイ)は、もっぱら夜にねらう魚だった。チヌの習性を利用した落とし込み釣りやオキアミをマキエにチヌを寄せて浮かせて釣るフカセ釣りなどの登場で、チヌは日中でもよく釣れる魚となったが、チヌのルアー釣りなど現在でも夜間にねらう釣りは盛んである。
大阪湾を中心とした関西沿岸では、秋のタチウオ釣りは日暮れ時から夜間の釣りだ。時合いは短いが夜半から夜明けまでもねらえる。というのは明るい日中、タチウオは陸上の釣り人の仕掛が届かない沖の深い場所にいて、日暮れごろになるとエサの小魚を追って沿岸部の浅いエリアに移動してくるからだ。明け方が逆に明るくなるに従いタチウオは沖に出て行ってしまう。仕掛さえ届けば船釣りのように日中でも釣れるが、陸からは夜にねらうのがセオリーだ。
活動場所こそ違えタチウオのように昼も夜もエサを食べる魚は実に多い。前述のチヌだって昼夜ともしっかりエサを食べる。陸からねらえるたいていの魚たちは昼でも夜でも基本的に釣るのは可能だ。しかし、単に警戒心や行動エリアの違いで夜の方が釣りやすい魚が多いというワケだ。
シーバス(スズキ)、メバル、アジ……。魚ではないけどアオリイカも夜のほうがよく釣れる。マダコだって実は夜行性が強い。ナゼか夜にねらわないだけなのだ。
夜間にねらえる魚を列記するよりも、まず日中にしか釣れない魚を探す方が早い。キュウセンなどベラ類は夜間は砂に潜って寝るので夜釣りでは釣れない。イシダイ、イシガキダイ、カワハギ、ブダイなども夜間に釣れた話を聞いたことがない。カレイ、アイナメやクジメ、ホッケなどは釣れないことはないようだが確率は低い。つまり日中にしか釣れない魚は意外に少なく、言い換えれば夜釣りの対象魚はかなり多いということなのだ。
2.釣り人側にもメリットが多い
「夏は暑さもしのげて人出もまばら……」
魚たちの都合だけでなく釣り人側にもメリットが大きい。たとえば仕事や学校が終わってから手軽に楽しめるのがひとつ。夕方からほんの2~3時間だけサッと釣って帰るという楽しみ方なら毎夜でも? という人も少なくないはず。
また夜間は日中にくらべ釣り場が比較的空いていることが多い。平日はともかく週末や休日の夜でも、のんびり楽しむことができるのだ。
これから夏場、日中はうだるような暑さでも夜間は比較的涼しい。熱中症が懸念される盛夏でも夜釣りなら安心だ。
ただ夜釣りは釣り人側へのデメリットも少なくない。何せ夜間である。ライトがあっても足下は見えにくいので、それだけ日中にくらべ危険が伴う。盛夏はともかく初夏や初秋でも夜間は冷え込むことがあり、思いの外、寒い思いをすることがある。
そして、夜釣り最大の敵は蚊! 暖かい季節、場所によっては蚊の集中攻撃を受けてしまう。しっかり防蚊対策をしていないと釣りに集中できないことも。
釣り場との行き帰り、道中にもメリット、デメリットがある。マイカーで出かけた場合、夜釣りなら帰路、道路が渋滞することが少ない。マイカー釣行は別だが夜半を過ぎると電車やバスなど公共交通機関が利用できないので夜釣りは時間が制約されてしまう。などなど…。
そう、夜釣りを快適に楽しむためには夜間特有のリスクに備え、どれだけ完璧に対策をとれるかにかかっている。とはいっても、それほど大げさなものではないので肩の力を抜いて安全第一で夜釣りにチャレンジしよう。
次回は「夜釣りの準備」編。釣り具や仕掛、エサ以外に必要なものを紹介しよう。