INDEX
- ● 季節・自然にまつわる魚へんの漢字 その1
- ・【鰆】
- ・【鰍】
- ・【鮗】
- ・【魚夏】
- ● 季節・自然にまつわる魚へんの漢字 その2
- ・【鱪】
- ・【𩸽】
- ・【鱈】
- ● 出世魚にまつわる魚へんの漢字
- ・【魬】
- ・【鮬】
季節・自然にまつわる魚へんの漢字 その2
四季にまつわる漢字があてられた魚たちの他、季節や自然に関係する漢字があてられたものもある。
【鱪】
残念ながら、魚へんに「夏」とついた漢字はなかったが、夏を彷彿させる「暑」と書かれた漢字の魚がいる。さて何と読むか…?
答えは「シイラ」だ。シイラは温かい海に生息し、海面の漂流物やパヤオ(浮漁礁)の周りに集まる習性がある。そこをルアーで狙うゲームフィッシングのターゲットであることから、私の勝手な思い込みで恐縮だが、なんだか海外の魚のイメージが強い…。しかし、日本近海に多く生息する魚で、釣りの最中にはよく見かけるうえ、水面をパワフルに飛び跳ね黄金の魚体が美しい魅力的な魚だ。
殻ばかりで実のない籾(もみ)のことを「粃(しいな)」というそうだが、頭が大きいくせに中身がカラッポといった連想から「シイラ」という呼び名がついたとされる説がある。泳ぐ際、水の抵抗を少なくするため頭が尖った魚が多いなか、シイラは頭が大きくオデコが張り出した珍しい魚の1種。漢字の「暑」に関しては、単純に暖かい海に生息し暑い夏に旬を迎えるということからだそうだ。
【𩸽】
日本だけではないが、季節の移ろいとともにさまざまな草花を楽しむことができる。なかでも花はわれわれの目を鮮やかに楽しませてくれ、心を癒してくれるのだが、魚へんに「花」をあてられた漢字の魚は一体?
ヒントは、スズキ目アイナメ科に属し、茨城・対馬海峡以北に生息。主に北海道周辺で漁獲される脂肪分が多く美味しい魚。そう、居酒屋メニューでお馴染みの「ホッケ」だ。中国にはない日本で造られた国字だそうで、「幼魚が青緑色をしている」「産卵期のオスがコバルト色になり鮮やかな唐草模様がみられる」という、見た目の美しさから「花」があてられたとされる。アイナメやクジメと違い、尾ビレが二股に分かれているのが特徴だ。
【鱈】
暑い夏、色とりどりの花とくれば、草木を静かに覆いつくし、しんしんと降り積もる「雪」。比較的メジャーな部類に入ると思われる魚へんに「雪」のつく漢字は「タラ」だ。
漢字からイメージしやすい説としては、冬場のとくに吹雪の多い季節によく獲れるという、漁期にちなんで「雪」がつけられたというもの。または、その身が雪のように白いところからつけられたという説。タラ目タラ科に属す魚で、北海道や東北で多く獲られる北国を代表する魚。ちり鍋やムニエル、煮付け、竜田揚げなど、食卓でお目にかかる機会は多い。タラはマダラを指すことがほとんどで、体側に不規則な褐色の斑紋(=まだら)があるところから名前がついたそうで、同じ仲間に明太子で有名なスケトウダラがいる。スケトウダラは漢字で「鯳」と書くので、海底に棲む魚のように思われるが、実はタラの方が底に棲み、スケトウダラは中層に棲むらしい。やや紛らわしい漢字だ(笑)。
出世魚にまつわる魚へんの漢字
最後に、先の内容で「出世魚」についての話が多かったので、出世魚の漢字を一部ご紹介。
【魬】
魚へんに「反」と書いて「ハマチ」。先ほども「ワカシ」の項で出てきたブリ(鰤)の若魚のころの呼び名、しかも関西での呼び名だ。
身が張って円(つぶ)らかだから「ハリ(張)マ(身)チ(父)」が語源だという説と、刀剣の身と茎(なかご)との境を「刃区(はまち)」ということと関係があるという説など、さまざま。漢字としては「反」が使われているが、「反」は「そりかえって元に戻る」というイメージの他、「薄くて平ら」というイメージも示す漢字ということだそうだ。「魬」の実際の姿と漢字のイメージが合致するかどうかは別として、釣りでもお寿司でも、大型のブリよりは親しみやすい手頃な存在だ。
【鮬】
もう一つ出世魚の漢字を…。魚へんに「夸」と書く漢字、こちらは「セイゴ」と読む。魚類の分類体系「目」のなかで、最も多い分類名「スズキ目」にもなっているスズキ(鱸)の幼魚のころの名前だ。
都市の港湾部から河川の中流といった汽水域まで幅広く生息しているスズキは、釣り人を魅了してやまないフィッシュイーター。関東では「セイゴ → フッコ → スズキ → オオタロウ」、関西では「セイゴ → ハネ → スズキ」、東海では「セイゴ → マダカ → スズキ」と呼ぶなど、成長過程の呼び名は地方によってさまざまだ。全般的に幼魚・若魚といった子供のころをセイゴと言う点では共通しており、市場では「清子」と書かれていることもある。
魚へんの漢字、いかがだっただろうか? 個人的に興味が持てる、また覚えやすいグルーピングでピックアップしてみたが、まだまだ知らない漢字はたくさんある。どうしても「ただの暗記」になってしまうとなかなか漢字を覚えることができない…。なので、今後も楽しみながら、そして少しずつ面白いエピソードに触れながら、学んでいければと感じている。また機会があれば紹介させていただきたい。
※本文の漢字の成り立ちや名前の由来は諸説あるうちの一部です。ご了承下さい。
出典:
新村出編 (1997) 『広辞苑』第4版 岩波書店.
小西英人著 (2018) 『写真検索 釣魚1400種図鑑』 KADOKAWAメディアファクトリー.
江戸屋魚八著 (2002) 『ザ教養 魚へん魚講座』 新潮社.
加納喜光 (2008) 『魚偏漢字の話』 中央公論新社.