学校で話したくなるお魚雑学 No.9 僕らのお魚ニックネーム
釣り人より愛を込めて!?

ギンガメアジやロウニンアジの幼魚を金属メッキのように体表がピカピカ光ることからメッキと呼ぶように、魚には釣り人が独自に与えた俗称、ごく一部の釣り人の間だけで通じる符号がある。今回は肩の力を抜いて、釣り人愛にあふれた!? 皮肉たっぷり!? の釣魚たちのニックネームを集めてみた。

釣魚のサイズに対する表現

なじみのあるところではタチウオだ。メーターオーバーの大型は翼、鋭い爪を持ち火を吐くという伝説の生き物「竜」に見立てて「ドラゴン」と呼ぶのはご存じのとおり。そう、くねるボディー、歯が鋭いタチウオの顔付き、特に大型ほど厳ついから、ピッタリのネーミング。逆に細い小型は「ベルト(級)」と呼ばれる。指2本幅サイズなら、ズボンのベルトぐらいの幅。長さ的にもそんなものだ。

タチウオ
1m20cm! この体高、この顔付き、文句なしのドラゴン!

全長20cm程度の小さく細いサヨリを釣り人は「エンピツ」と呼ぶ。尖った口先、サイズ感もまさに鉛筆にそっくり。40cm近い大型のサヨリをサンマクラスと呼ぶこともある。

サヨリ
サヨリ。上の小さい方は手のひらに収まるエンピツサイズ。言い得て妙

クロダイ(チヌ)の幼魚は関東ではカイズ、関西ではババタレと呼ばれるが、同じタイ科のキチヌ(キビレ)の幼魚を大阪あたりの釣り人は「キババ」と呼ぶ。キチヌのババタレだからキババなのだが、あまり品はよろしくないようで。クロダイの大型は「年無し」だ。年齢が分からないほど大型、老成という意味。サイズ的には小さくても50cm以上だろう。

チヌ
小さいけど立派なタイ科の魚。キチヌの小型を関西アングラーはキババと呼ぶ

釣魚の見た目、形態に由来する表現

これぞ釣り人ネーミング! といえるのがメジナ属、そうグレの仲間たち。グレとひとまとめに言ってしまうこともあるのだが、古くから関西の磯釣り師は3種を区別して呼んでいた。一番普通に釣れるメジナは「口太(くちぶと)グレ」、強烈な引きとスピードで「これはちょっとヤバイぞ!」と大型が別格扱いされるクロメジナは「尾長(おなが)グレ」だ。確かにクロメジナの尾ビレ上下葉はメジナにくらべて細く長く鋭いから尾長という名前には納得するのだが、メジナの口太といわれる所以は、う~ん? クロメジナにくらべて多少は口(唇?)が厚いようにみえるけど、それならメジナ属のもう1種であるオキナメジナのほうが間違いなく口太だ。そのオキナメジナは関西で「牛グレ」、伊豆諸島では「スカエース」と呼ばれる。ちなみに伊豆諸島ではメジナ科の魚をエースと呼び「スカのエースだからスカエース」というワケ。何だか、かわいそうだなあ。

メジナ
メジナは口太グレ。そんなに唇太くないけどなあ?
クロメジナ
クロメジナは尾長グレ。確かにメジナにくらべて尾ビレは長い
オキナメジナ
オキナメジナ。こいつこそ口太というイメージなのだが……

磯の王者、イシダイの幼魚を関西では「サンバソウ」と呼ぶのだが「ワッペン」という表現もある。背ビレの後端と尻ビレをピンと張ると三角形に近いシルエットになるので、まさにワッペンなのだ。サンバソウとワッペンに大小の区別があるのかどうか知らないが、釣り人は、より小さいものをワッペンと呼んでいるのかもしれない。同じイシダイ科のイシガキダイの老成魚は口のあたりが白くなるので「クチジロ」と呼ばれる。対して口の周りが黒い大型イシダイを「クチグロ」と呼ぶこともあるが、イシダイはイシダイでいいような気がするのだが。そうそうイシダイは60cm以上のステイタスサイズになると「大判」という称号が与えられる。

小型のイシダイ
能の翁の衣装に似ることから小型のイシダイを関西ではサンバソウと呼ぶ。頭を下に向けると三角形のワッペンにも見える

身体全体が真っ黒で大きく突出した鋭い歯が赤いアカモンガラは沖縄で「ドラキュラ」だ。真っ赤な歯が血を吸ったばかりのドラキュラ伯爵に見えるのだろう。本州の釣り人にはなじみのない魚だ。

磯釣りのエサ取りでやっかいなネンブツダイなどは赤く小さい見た目から「キンギョ」「赤ジャコ」と呼ばれる。縦縞が顕著なイサキの幼魚は、同じく幼い時期に縞があるイノシシ幼少期の通称「うり坊」が、まさにぴったりのネーミング。南日本の磯で夜釣りをすると手を焼くエサ取りのミナミハタンポなどハタンポの仲間は、その形状から「ヘリコプター」だ。個人的には伊勢湾などに多いギマのほうが、どう見てもヘリコプター。

ネンブツダイ
ネンブツダイ。まあ確かにキンギョですな、こいつは
イサキの幼魚
イサギの幼魚「うり坊」には鮮明な縦縞がある。親のイサキはまったく猪突猛進ではないのだけれど……
ハタンポ
ハタンポの仲間。尾柄部から尾ビレあたりがヘリのテールローターぽい
ギマ
ギマ。まさにヘリコプターの着陸姿勢そのもの!

ニザダイは尾ビレ付け根に黒斑突起があり実際には4~5つあるのだが、後ろの2つは小さく目立たないので「三」の字に見えることから「サンノジ」である。さらに愛を込めて? 「サン公」「サンちゃん」などともいう。ウスバハギやソウシハギは薄べったい体型から「ウチワ」だが、ソウシハギの尾ビレは乾燥させれば、本当にウチワとして使えそう。

ニザダイ
ニザダイは関西でサンノジ。尾ビレ付け根の黒斑突起が漢字の「三」に見えることから

よく分からないのがヒブダイ。南方系のブダイの仲間なのだが、水温が高い夏場は本州の太平洋岸黒潮域でもよく釣れる。グレを狙ったフカセ釣りをしていると、強烈な引き味で大型の尾長グレが来たかと期待感たっぷりで引き上げてみると「なんだ、オババか……」というのは本州最南端の串本界隈。う~ん、何だろう? 見た目がお婆ちゃんそっくりだから? それにしても派手なお婆ちゃんだ。

ヒブダイ
ヒブダイ。串本あたりではオババ。こんなお婆さんいるようないないような……

釣りの状況に関する表現など

磯釣りの外道でおなじみのタカノハダイは「ゲームセット」という不名誉な称号。フカセ釣りでグレはともかく何にも釣れないような悪い潮、最悪のコンディションのときによく釣れるから。実は、そんなときでないとエサにありつけない鈍くさい? 魚であるタカノハダイが釣れたら本日の釣りは残念ながら終了「ゲームセット」という意味なのだ。

ブダイ
ブダイ。関西ではイガミ。四国ではゴンタ。浄瑠璃「義経千本桜」の登場人物「いがみの権太」からのネーミング

伊豆大島や南紀では釣魚として人気があるブダイは徳島など四国方面で「ゴンタ」と呼ばれる。これは関西での地方名「イガミ」が元になっており、浄瑠璃「いがみの権太(ごんた)」から、イガミすなわちゴンタと呼ばれるようになったということらしい。悪戯な悪ガキのことだと思っていたら意外とアカデミックなので驚いた。