岸辺から25号、30号という重いテンビンオモリを使ってオーバー100mをねらう本格的なキャスターから、ショートロッドに軽いオモリで至近距離で遊ぶチョイ投げ派まで、釣れてうれしいカレイにアイナメ。ベラを好んで釣るのは瀬戸内海など一部地域限定だが、それぞれにウッカリ間違いやすい「そっくりさん」がいる。今回はマコガレイとイシガレイ、アイナメとクジメ、キュウセンとホンベラの簡単な見分け方。
マコガレイ(カレイ科ツノガレイ属)・イシガレイ(カレイ科イシガレイ属)
春4月。投げ釣りファンの最大のお楽しみが戻りガレイだ。秋から冬場に産卵を終え、げっそり? 痩せてしまったカレイが、再び体力を回復し肉厚になって投げ釣りでよく釣れるようになるのがお花見のころ。そう、戻りガレイは花見ガレイとも呼ばれるのだ。
カレイ科の魚は日本では北海道~九州の沿岸に17属33種が分布する。そのなかでも特に釣り人に人気があるのが北海道南部から大分県、東シナ海北部に分布するマコガレイだ。とにかく食べて美味しいカレイで煮付けを代表に刺身、唐揚げ、焼き物と何でもこい。最大で60cm以上になるようだが、そんな大型は非常に少なく40cmオーバーでさえ、なかなか釣れない。
実はマコガレイと非常によく似た種にマガレイがいるのだが、これは東北以北に多い北方系のカレイで、関東以南の釣り人にはあまりなじみがないので、ここではマコガレイに次いでよく釣れるイシガレイを取り上げることにした。ちなみにマコガレイとマガレイの見分けは無眼側の尾鰭付け根を見るのが手っ取り早い。マコガレイは全体に白いが、マガレイは縁辺が淡く黄色いのが特徴。
日本各地に分布するイシガレイはその名の通り、有眼側の背側、側線付近、腹側に石のような突起が並んでいるのが特徴で、ご存じの方も多いと思う。これを魚類学的には「石状の骨質板」と呼ぶ。ここを見ればマコガレイとの違いは一目瞭然で、見間違うことはないと思う。
イシガレイはマコガレイに比べて大きくなり最大で80cm近いものもいるようで40cmオーバー、50cmオーバーもそれほど珍しくなく、大型ねらいのキャスターには人気の魚。ただ、食味のほうは残念ながらマコガレイほどではないと評価されることが多い。皮に多少臭みがあるのが原因のようだ。
マコガレイの地方名 | イシガレイの地方名 |
---|---|
アマコ・アマテ・アマガレイ(西日本)、クチボソ・ホソクチ(北陸・山陰)、シロシタガレイ(大分)など | イシモチガレイ(北海道)、ゴソガレイ(北海道東部)、コモチガレイ(北陸)、シロガレイ(北陸)、イシモチ(九州)など |
アイナメ・クジメ(アイナメ科アイナメ属)
東北より北の地方には、まだまだ大型が多いようだが、近年、関西などでは良型をめっきり見かけなくなったのがアイナメだ。特に古くから投げ釣りファンに人気がある魚だが、防波堤や磯場の探り釣り、ウキ釣りでも釣れるし、ワームを使ったロックフィッシュゲームのターゲットにもなっている。
関西ではアイナメの大型をポンと呼ぶ。いったい何cmから上のサイズをポンと呼ぶのか? という話にはいろいろあって「ビール大瓶が約30cmなので、ビール瓶1本でポンになった」という説や、「いやいや約40cmの一升瓶のことだから40cm以上だ」という話も聞いたことがある。いずれにしても30cm、40cm以上の良型、大型が少なくなってしまったのは事実。実に悲しい。
このアイナメによく似た魚に同じアイナメ科アイナメ属のクジメがいる。日本各地に棲息するアイナメに対しクジメはやや南に多く北海道南部が北限のようだ。クジメはアイナメほど大きくはならず30cmを超えるものはまれ。関西では20cm以下の小型が多く、底が丸見えの浅い海でも小型アイナメにまじってよく釣れる。
この2種の見分け方は簡単。尾鰭の後縁を見る。真っ直ぐで直線的ならアイナメで、丸くカーブしていたらクジメだ。側線の数も違う。アイナメは5本(背側に3本・腹側に2本)なのに対し、クジメは1本のみだ。
アイナメの地方名 | クジメの地方名 |
---|---|
アブラコ(北海道)、アブラメ(関西地方)、シジュウ(新潟・秋田、京都)、モイオ(富山)、ネウ(東北)、ツムギ(徳島阿南)、モミダネウシナイ(広島)、シジョ(新潟)など | イソシンジョ(山形)、モロコシアイナメ(東京)、クズス(福島)など。アイナメと混称されることが多い |
キュウセン(ベラ科キュウセン属)・ホンベラ(ベラ科ホンベラ属)
北海道南部から九州までに分布し、全国各地でエサ取り、外道扱いされることが多いキュウセンだが、瀬戸内海では投げ釣りはもちろん船からもねらう人気ターゲットだ。兵庫県明石の魚の棚商店街には初夏になるとベラがズラリと並ぶ。関西でベラといえばキュウセンを指すことが多いのだ。ある大阪の女性が初めて魚の棚の鮮魚店をのぞいて「赤や青の熱帯魚のような魚が並んでた」という感想を漏らしたことがあるが、同じ関西人でもキュウセンに対しての認識がまるで違うのが面白い。
よく似た魚にホンベラがいる。青森の下北半島以南に分布しキュウセンにまじって釣れるので、ホンベラをキュウセンと勘違いしている釣り人も多いのではないかと考えられる。瀬戸内海の釣り人なら、まず見誤ることはないが……。以前に大阪のベテラン釣り師が淡路島で釣り上げて「これキュウセンやろ?」と見せてくれたベラは、しっかりホンベラであった(笑)。
この2種を見分けるには、それぞれの雌雄の違いを認識することが先決だ。ベラ科の多くの魚は性転換することで知られキュウセン、ホンベラとも例に漏れない。特にキュウセンは小さく赤っぽい雌が大きくなると一部は雄に性転換し青い体色になる。瀬戸内海の釣り人はこれを青ベラと呼び珍重するのだ。キュウセンの雌雄の違いは体色だけでなく吻から眼を通る黒い縦帯があれば雌、眼の下に橙色の線があれば雄だ。一方のホンベラは鰭の色を見る。背鰭の前部に黒色斑があり尾鰭が黒っぽければ雄、背鰭に目立った斑紋がなく尾鰭が透明なら雌だ。これを頭に入れておけば釣り場でもすぐ判別可能、慣れてくればパッと見ただけでキュウセンかホンベラかの区別はできるようになる。
ちなみに明石界隈や瀬戸内地方でのキュウセン料理として人気があるのが南蛮漬け。素焼きもしくは素揚げにしてタマネギやニンジンとともに三杯酢に漬け込む。どちらかというと小型の雌に向いている。大きい青ベラは「刺身がイケル!」という人もいるのでお試しあれ。ホンベラも食べられるがキュウセンよりは味が落ちる。
キュウセンの地方名 | ホンベラの地方名 |
---|---|
ギザミ(瀬戸内地方)、シマメグリ(青森)、モズク(富山)、ヤギ(島根)、スジベラ(和歌山)、ベロコ(香川)、クサビ(長崎)、モバミ(鹿児島)、ベラ(各地) | ベラ(各地)、ヤナギベラ(一時提唱された別称)など。キュウセンと混称されることが多い |