知っていれば安心!釣魚豆知識 正真正銘の「鯛」は日本に13種
タイ科の魚たちの簡単な見分け方と地方名

魚の王様と呼ばれ、おめでたい魚の代名詞である「鯛」。その代表格であるマダイの仲間である「タイ科の魚」で日本近海に棲息するのは以下の13種。マダイ、チダイ、キダイ、キビレアカレンコ、ホシレンコ、タイワンダイ、ヒレコダイ、クロダイ、キチヌ、ヘダイ、オキナワキチヌ、ミナミクロダイ、ナンヨウチヌ。たった、これだけなのだ。

えっ? 他にも「鯛」を知っているって? イシダイにイシガキダイ、アマダイ、ニザダイ、サクラダイ、フエダイにフエフキダイ、スズメダイ……。日本産魚類の図鑑をめくってみると約300種もの魚に「何とかダイ」という名前を見つけることができる。
ご存じの方も多いと思うが、実はこれらの魚はいわゆる「あやかりダイ」と呼ばれるているもので、おめでたくて高級な?「タイ」ブランドにあやかっているだけ。タイ科には分類されず、マダイやクロダイとは近縁でも何でもないのである。

というわけで正真正銘「ニッポンのタイ」は前述した13種だけなのである。そのタイ科の魚たちはマダイのように赤いタイと、クロダイのように黒っぽいタイに分けることができる。
ここでは釣り人にとっては一般的でなく、なじみが薄いホシレンコ、タイワンダイ、ヒレコダイを除く「赤いタイ」と「黒いタイ」を、それぞれの簡単な見分け方と代表的な地方名を紹介しよう。

赤いタイ

マダイ・チダイ・キダイ・キビレアカレンコ

これら赤いタイを見分ける場合に、まずキーになるのが体に青色斑があるかないかだ。青色斑があればマダイかチダイ、青色斑がなければキダイかキビレアカレンコだ。ちなみに、ここでは紹介しないホシレンコ、タイワンダイ、ヒレコダイにも青色斑はない。

ではマダイとチダイの見分け方。成魚の場合は見慣れた人なら釣り上げたときにパッと見て全体の雰囲気でマダイかチダイの区別は付くはず。チダイは後頭部が張り出しているのだ。しかし小型の個体はこの限りにあらず。簡単なのは鰓膜(さいまく)と呼ばれる鰓孔(エラブタ)近くにあって、その開閉に関与する膜。血鯛という漢字があてられるチダイは、その鰓膜が血のように赤く、その赤い部分が非常に幅広い。
比べてマダイは赤い部分が狭い。もしくは赤くない個体もいる。簡単に見分ける方法は尾鰭の後縁に注目すること。マダイは黒く縁取られているがチダイは黒くない。尾鰭下葉の先端が白いのもマダイの特徴だ。

体に青色斑がないキダイとキビレアカレンコ。この2種の見分け方はキビレアカレンコの名前の由来にもなっている背鰭の色。キダイは赤みが強いがキビレアカレンコの背鰭は黄色いのだ。ただしキビレアカレンコの分布域は琉球列島や小笠原諸島だけなので、本州や四国、九州で釣れた「青色斑がないタイ」はキダイと考えてよい。ともに水深50m以上を生息域としているので船釣りの対象魚だ。

マダイ チダイ
キダイ キビレアカレンコ
マダイの地方名 チダイの地方名 キダイの地方名 キビレアカレンコの地方名
タイ(各地)
チャリコ(関西で当歳魚)
カスゴ(各地で幼魚)
ハナダイ
ハナオレダイ(関東)
チコ
チコダイ、ヒメダイ(各地)
レンコ
レンコダイ(各地)
ベンコダイ(広島、高知)
ベンコダイ(奄美)
フカヤーマジク(沖縄)

黒いタイ

クロダイ・キチヌ・ヘダイ・オキナワキチヌ・ミナミクロダイ・ナンヨウチヌ

黒い鯛の代表は異論なくクロダイ属のクロダイだ。本州や四国、九州で釣れるのは、クロダイに加えて同属のキチヌ、ヘダイ属のヘダイの3種だけで、この3種を見誤ることはそうないと思われる。
特に琉球列島にも分布するヘダイは吻が丸く顔つきが違うし、体側に黄褐色の縦線があるので、釣り上げた途端に全体のイメージが違うのですぐ分かる。ヘダイは尾長グレ(クロメジナ)が釣れる塩分濃度が高い荒磯のフカセ釣りで大型が釣れることがあるが、その馬力は半端なく非常に驚かされる。

クロダイとキチヌを見分けるのは、ご存じの通り尾鰭(びき=おびれ)の下葉、臀鰭(でんき=しりびれ)、腹鰭(ふっき=はらびれ)が黄色いか黄色くないか。黄色い個体は、黄色い鰭=キビレ、すなわちキチヌだ。ただしキチヌのなかには鰭の黄色みが薄く淡い色あいのものもいるので注意。クロダイの鰭は黒っぽい。

ややこしいのは琉球列島にいる3種のクロダイ属。といっても沖縄の釣り人たちは古くから、この3種を区別して釣っていたようだ。
琉球列島の内湾や河口の汽水域でもっとも普通に釣れるのがミナミクロダイ。腹鰭、臀鰭は暗い色をしている。沿岸性で沖縄島、石垣島で記録されるオキナワキチヌは魚類学上、2008年に新種記載された魚だが、全体に白っぽく大型になるこの種を、沖縄の釣り人は古くから「チンシラー」という呼び名で珍重していた。このオキナワキチヌは香港の沖磯にも分布し、重量があるためか非常に重々しい引きをみせる。ミナミクロダイと比較すると腹鰭、臀鰭が白っぽい淡色(黄色みがかることもある)で、目の下にある涙骨の下縁が明瞭に白いことで区別できる。

ナンヨウチヌは日本産の他のクロダイ属に比べて体高が高く、尾鰭が丸く切れ込むのが特徴。何となくコイの尾鰭に似ていると感じるのは気のせいだろうか? 内湾や河口域に多く淡水にまで入ってくるそうだ。特に石垣島、西表島に多い種だ。

クロダイ ミナミクロダイ
キチヌ オキナワキチヌ
ヘダイ ナンヨウチヌ
クロダイの地方名 キチヌの地方名 ヘダイの地方名
チヌ(関西、四国、西日本)、チン(九州)、クロ(東北地方)、ケイズ(東京都)、カワダイ(北陸地方)、チンダイ(山陰地方)など。
関東ではチンチン・カイズ(ケイズ)・クロダイ、関西ではババタレ・チヌ・オオスケなどと成長とともに名前が変わる出世魚である。三重では老成魚をツエと呼ぶ
キビレ(各地)、キビレチヌ(関西)、シラタイ(東京、和歌山)、ヒレアカ(高知)、ヒチヌ(宇和島)など シラタイ(和歌山)、シラチン、シロチン(和歌山、鹿児島)、ヒョウダイ(高知、長崎)、セダイ(山口、長崎、宮崎)、ヘイズ(丹後地方)、コキタイ(浜名湖)、セチン、セジン(九州)、スッポ(鹿児島)、チバー(沖縄)など

[沖縄のクロダイ属3種の呼び名]
沖縄で普通に釣れるミナミクロダイはチンもしくはツン(宮古島)と呼ばれる。オキナワキチヌはチンシラー。これら3種を区別せずチヌ、チンと呼ぶことも多いと思われる。