長年釣りをしていると当たり前のことでも、釣りを始めて間もない人にとっては「目から鱗!」「そうだったのか!」という、ちょっとしたノウハウをお届けするのがこのコーナー。釣果に直接かかわることではないけれど、アナタの釣りが快適になるかもしれない!? ほんのちょっとの工夫とアイデア。
今回は、かつてレポーターが経験した失敗をもとに、万が一落水した場合の対処法を話そう。
磯や防波堤で海に落ち込んだら……
無理にはい上がろうとしない!
40年近く前の年末のことだ。夜討ち朝駆けで和歌山県は南紀方面の磯へグレ釣りに行き、帰路の夕方からは紀北の磯で半夜のメバル釣り。ともに某テレビ局の釣り番組取材も兼ねていた。何せ20歳台のころ、若かった。前夜から一睡もしていなくても平気だった……いや、平気だと思い込んでいたのだ。
災難はメバル釣りの最中に起こった。けっこう足場が高い切り立った磯の上から暗い海面に浮かべた電気ウキを見つめていた。「アタリないなあ……」と思った次の瞬間、先ほどまで眼下にあったはずの海面が一瞬にして見上げる位置に。
そう、海に落ち込んだのだ。落ちる瞬間の記憶はない。ということは、睡魔に襲われ意識がもうろうとすると同時に海に落ち込んだのだろう。気が付いたときはすでに海の中。テレビクルーの照明が照らす海面を海中から見上げたのは、後にも先にもこれ1回きり。
「おい大丈夫か? これに捕まれ」と同僚が差し出した釣り竿を握ったとき、ようやく何が起こったのか自覚した。たまたま、その磯のすぐ脇には浅くなだらかな場所があり、これまたテレビ撮影用のライトに照らされながらゆっくり上陸。事なきを得たのを今も鮮明に覚えている。釣り場には着替えはなく防寒用に持ち込んでいたレインウェアを素肌の上に着込んで、迎えの渡船が来るまで過ごしたのだった。12月だったがまだ水温も高く気温もそれほど低くなかったのが幸いだった。
大事にいたらなかったのはライフジャケット(磯釣り用固定式)のおかげだろう。海に落ち込んだ身体を一瞬にして海面まで浮上させたのはライフジャケットさまさま。股ヒモをきちんと締めていなかったら落水の衝撃でライフジャケットは脱げていたかもしれない。改めてライフジャケットの必要性と、正しい装着法の大切さを認識したのである。
また運がよかったのは磯といっても湾奧で、ほとんど波がなかったこと。波が高く磯際がサラシなどでザワ付いているような場所は、岸にしがみついてはいけない。波の力は半端ではなく海中に引き込まれることもあるし、磯際に付着した貝類で手足を切る危険性も大。
このときは楽に上陸できる浅くなだらかな場所があったが、切り立った磯で波が高い場合は危険な磯際から一旦離れ、安全な場所で浮きながら救助を待つのが正解。これは磯に限らず垂直護岸の防波堤でも同じ。防波堤のテトラなどもたいてい貝類が付着しているので、はい上がるのは危険だ。
渡船利用の場合はすぐに船長に連絡、徒歩で地磯などにアクセスした場合は海上保安庁に連絡する。同行者にお願いするのが一番だが、誰もいない場合は自分で電話するしかない。そんな場合に備えスマホは防水ケースに入れておくと安心だ。海上保安庁「海のもしもは118番(緊急通報用電話番号)」なので覚えておこう。
川を渡る場合は確実に安全なルートで
急がば回れ!
夏場は川の水難事故も多い。レポーター自身も、かつてアユ釣りの最中に「やばい!」と思ったことがある。一度は和歌山県日置川。曇天の日の夕方、光量が少なく川底がよく確認できなかった。アユ竿をかついで川を渡っていたら突然の深みにはまってズボッと全身水中へ。幸い流れが緩かったので泳いですぐの浅瀬にたどり着いて事なきを得た。
もう一度は兵庫県の揖保川。1日の釣りを終えて竿を仕舞い対岸で待つ友人の元へ。流れの中央はけっこう深いが少し泳げば「すぐに足が立つ」と思ったら、これが見当違い。対岸ギリギリまで深みは続きハアハアゼエゼエ息を切らせ必死で泳いだのだった。
身体一つなら楽に泳げる距離で流れもなかったが、アユ釣りのフル装備(アユタイツ、アユタビ、ベスト、タモ、竿、引き舟)を身につけて泳ぐのが、これほど大変だとは……。途中何度か竿も引き舟も捨てようかと思ったほどだ。少々遠回りでも間違いなく浅い場所、安全を確保できるルートを選ぶのが鉄則と、改めて肝に命じることになった日だった。
暑い夏、水辺が恋しい季節。海にしても川にしても釣りは安全第一。無理、無茶をしない。自分の命を守る行動をお願いしたい。