From HEAT the WEB DIRECTOR Behind the stage
~開発の裏側を照らすスポットライト~ part.1

皆さんは、日々釣り道具を造り、発売する我々「釣具メーカー」の頭脳とも呼べる「開発担当」に憧れをお持ちだろうか?かつて私もそうであったが、釣り好き故に「より釣れる道具、仕掛があれば、もっと釣れる!!」であるとか、「もっとこんな道具があれば便利なのに・・・」と言った想像を膨らませ、「自分で作ってみたい!!」と考えたことは無いだろうか。そして、そのモノ造りを仕事と出来る「開発」というお仕事に夢を抱いたことは無いだろうか。。。
自分の妄想を具現化できるという満足感に満たされ、ヒット商品の一つでも生み出せば、多大な報酬と賞賛を手にすることが出来る、そんな華々しい世界と思われる「開発」が、実のところはどうなのか?今回は開発担当に協力を貰いながら、少しだけご紹介したいと思う。

いきなりだが、まず断っておきたいのは、以前のコラムでもお伝えした様に「ハヤブサ」は、そう大きくない企業である。上を見ればキリがないが、世の中には大企業たるものが存在し、我が社とはまるっきり違う環境だと想像できる。
「開発」とひと言に言えど、その程度は様々で、ひょっとすると我が社の環境や価値観は稀であるかも知れないので予めご了承頂きたい。

開発現場

我が社での「開発」がどの様に行われているかと言うと、予め造るモノが決まっている訳では無く、全国を飛び回る営業員からの現場情報やお客様から教えて頂く世間の要望・需要、そして過去のラインナップの売上実績と言った情報から、比較的感覚的に「可能性を感じるモノ」を導き出す。そこには確固たる道しるべは無く、まずは「可能性を形にする」事で見えてくることが多いのである。そのため、いざ企画をまとめるとなっても「どんな形で、どんな機能で」という仕様を決めるにも、なかなかの時間(悩める時間)が掛るのだ。
ある担当は、1日の業務の中で、必ず30分はアイデアを搾り出すために考える時間を設けている者も居る。とは言え、必ずしも考えようとして思いつく訳では無く、何気ない日々の中で、例えば、寝る前やトイレ中、通勤での運転中、食事中、釣具店での物色中などにひらめく事も多いようだ。中にはお酒を飲んでいる最中、泥酔前の一瞬に覚醒したかの如く、ひらめく事もあると言っていた担当も居た(笑)。兎に角、いつ天から降り注ぐか分からない「ひらめき」を忘れてはならないと、皆一様にメモ(=ネタ帳)に必死で書き留める癖付けが染み付いているそうだ。しかし運転中だけはメモを取る事も出来ず、忘れまいと呪文の様にアイデアを唱えながら帰宅するものの、残念ながら忘れてしまう事もしばしば。
そうして手にした「ひらめき」は、やはり常日頃から意識して考えていないと、天からは降ってこないそうだ(あくまで比喩表現ですが)。多少なりとも他の人より「妄想力」「想像力」が長けているという事は、開発を行う上で必要な能力であり、美徳と言えるのだが、時には次の日に冷静にネタ帳を見返すと、夜したためた恋文の様に急に白けてしまったり、何を書いたか分からない事もあるそうだ。残念。。。

超動餌木 乱舞

ひらめきとアイデアを得て開発を行っていく中で、こんな面白い話が聞けた。
我が社には長年チカラを注いできたエギ「超動餌木 乱舞」シリーズがあり、誰でも使いやすいスタンダードタイプ「乱舞V3」がご好評いただいている。しかし、スタンダードタイプだけでは、これからのエギング市場を戦っていけないために、新たなタイプをという事で、「他社様に無いリアルを追及したエギの開発」を思い立った。業界に無い初めてのリアルさを持ったエギを造りたいために、「本物のエビで型を取ったらいいじゃないかっ!!」と、生きたエビを購入するため、兵庫県明石市にある「魚の棚(うおのたな)」にクルマエビを仕入れに行った。「魚の棚」は、明石近郊の台所として特産の魚介類や練りモノ、乾きモノを扱う商店を中心に100店舗以上が軒を連ね、県外からの観光客も多く押し寄せる巨大市場。ココならば理想のクルマエビも手に入れることが出来るだろうし、何より、生きている時の色も見たい。こうして手に入れたクルマエビ。我が社の開発部屋で散々写真を撮り、色や形を観察した後、(お亡くなりに成られた後)エギの形に整えてから、串焼きの状態でタレ付けするかの如くシリコン型へ。。。

プロトタイプ

一見奇抜とも言える行動ではあるが、そのテーマ「リアルさの追求」に基づき、ニヤニヤと開発を行ったそうな。そして生まれたのが「超動餌木 乱舞AB」である。
また別の話として、本年の鯛ラバ新製品「無双真鯛フリースライド DNヘッド」は、何と1度ボツになったアイデアが3年の時を経て採用、復活を遂げたという話を聞いた。
激化する鯛ラバ市場において、「遊動式」という新しいジャンルを提案し、お陰様で支持を得た我が社。しかし、これからは新たなシチュエーション、更に1匹を求めるアングラーに釣り方の深化を提案する必要があると考えた開発担当と協力して下さるフィールドスタッフは、「ドテラ流し」というシチュエーションをモノにする新タイプが必要と考えた。「横の釣り=浮き上がり辛い鯛ラバ」というテーマに対して、「過去に何かあったなぁ」とぼんやり記憶を巡らせたところ、過去に「一つテンヤ」で作り不要となったプロトサンプルを思い出した。「確か『ボツBOX』にあったのではっ!」

ボツBOX

因みに『ボツBOX』は、開発担当にとっては宝箱と言っても過言ではない大切な(?)保管場所。開発の末、陽の目を見る新製品がある一方、ボツサンプルとして闇に消え去るものは実に膨大。しかし、そのボツサンプルやアイデアは捨て去るのでは無く、『ボツBOX』に蓄積され、いつの日か陽の光を浴びることを夢見て、一旦お休みになるのだ。プロトサンプルが最終型の新製品となるのはかなりの確率の低さで(中にはまぐれの一発OKもあるが)、1/20~1/100程度でしか無い。膨大なボツサンプルの亡骸の上に、世に出る新製品があるのだ。

一方、別ジャンルの担当のアイデアがヒントとなり製品として採用されたり、アイデアに時代が追いつかずボツになったものが時を経て採用される事も有る。
ボツになっても捨てずに取って置く秘密のボックス『ボツBOX』。「無双真鯛フリースライド DNヘッド」は、まさにここから不死鳥のごとく蘇った新製品なのだ。。。と言いながら、実は案外ラフに置かれているボツサンプルなのだが。。(笑)

次回は開発における失敗談や苦労話を紹介したいと思う。

※本文は都合により脚色を交えております。また、個人的な主観で執筆しております。ご了承下さい。