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周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第26回はメッキ釣り。「メッキ」というのは小型のヒラアジ類の総称で、まるで金属メッキをしたかのようなメタリックに輝く魚体からそう呼ばれるようになったのは間違いない。
体高がある平べったいアジ科の魚
釣り人が「メッキ」と呼んでいる魚は主にギンガメアジ、カスミアジ、ロウニンアジ、オニヒラアジの4種で、同じアジ科の魚でも年中釣れるマアジやマルアジなども一応メタリックな魚体ではあるもののメッキと呼ばれることはない。どちらかというと紡錘形のマアジやマルアジに対し、体高がある平べったいアジ類の小型のみに与えられた称号だ。

出典:写真AC
ところがよく似た平べったいアジ科の魚であるシマアジに対しては、小型の幼魚であってもメッキという呼び方をすることはなく、さらにブリ、ヒラマサ、カンパチなどのアジ科の魚たちもメッキと呼ぶことがないのはご存じの通りだ。
メッキ釣りといえば和歌山日高川尻だったころ
以前、メッキというのは主に関西地方での呼び方だったと思う。現在ではほぼ全国的に使われているようだが、釣りの対象魚としても、ごく限られたエリアだけのものだったと記憶している。
個人的な話をすると、私が関西発の釣り雑誌社の編集部に身を置いていたころ(1983年~)、毎週のように関西各地から釣果情報を得て記事にしていたが、当時初秋になるとごく限られたエリアでのみメッキの声が聞こえてきた。それが和歌山県中部の日高川の河口~下流部。
釣り方は川面に固定されたカセ(小舟)からのウキ釣りもしくはミャク釣りで、エサは現地でチヌ釣りにも使われた生きたシラサエビだった。


このエビをパラパラと撒きつつ、ハリにもエビを刺してアタリを待ちアワセると、軟らかい竿(軟調の磯竿やヘラ竿、渓流竿など)をキュンキュンと絞り込み、メタリックな魚体が川面に浮上した。サイズは10~20cmのものがほとんどで、30cmを超すような良型は見たことがなかった。


調べてみたらメッキ類は主に4種だった
ここで釣れる平べったいアジ類を、当時は単に「メッキ」と一言で片付けていたが、あるとき何種かの魚たちが混じっていることに気が付いた。そこで、釣り上げた数10尾のメッキを研究者に依頼し同定してもらったところ、もっとも多かったのがギンガメアジで、ほかに数は少ないがカスミアジ、ロウニンアジ、オニヒラアジも混じっていることを確認できた。

出典:写真AC
当時とはカセを出してくれる業者は変わったようだが、いまでも日高川尻のカセからのメッキ釣りは健在のようだ。伝統的な釣りが継承されていることを嬉しく思う。
メッキ釣りから「メッキゲーム」へ
一方でソルトルアーの流行で、メッキ釣りは「メッキゲーム」として全国的にもポピュラーになったようだ。西日本に限らず東日本にまでエリアは広がり、アジングやメバリングの延長でメッキゲームを楽しむ人が増えたように思う。
以前、日高川と同じ和歌山県の日置川河口部のテトラからのメッキ釣りの取材に出たことがあったが、そのときにお世話になったアングラーさんのねらいは30cmオーバーの良型(本来はもっと大きく育つ魚ではあるが、近畿圏ではそれが限界だったのかもしれない)だった。ちなみに、そのアングラーさんは「40cmクラスもヒットすることがある」とも語っていた。
残念ながら取材当日は良型メッキの顔を見ることはできなかったが、近年の温暖化、高水温化の影響もあり、メッキと呼ぶには失礼な「ヒラアジ」類が西日本だけでなく東日本エリアでも釣りの対象魚になる(既になっている?)のかもしれない。
「死滅回遊魚」から越冬する「季節来遊魚」へ
以前、メッキ類は「死滅回遊魚(越冬できず死んでしまう魚)」と呼ばれたが、現在は越冬する固体が多く確認できることから「季節来遊魚」と呼ばれるようになっており、今後ますますアングラーを楽しませてくれるのは間違いなさそうだ。

出典:写真AC
しかし、近年の魚介類の異変、たとえば北海道でブリが大量に獲れたり三陸地方でイセエビが豊漁だったり(本来、イセエビの本場であった伊勢地方では漁獲減)と、日本を取り巻く魚たちの生息域異変はひじょうに気になるところである。ピカピカ輝くメッキ釣りは西日本の秋の限られた風物詩である方が、個人的には郷愁を誘うのであるが……。