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周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第13回はキュウセン釣り。ベラ科の代表的な魚なのでベラ釣りといえばこの魚。明らかに西高東低の釣りではあるのだが、とにかくこの釣りが盛んなのは瀬戸内海で、西日本でもほかの海域では本命視されることは少なく、ひじょうにローカル色が強い釣りといえるだろう。
南蛮漬けが病みつきになる!
関西エリアでとくにキュウセン(以下ベラと表記する)に目がないのは兵庫県神戸市から西の釣り人だろう。とくに明石市周辺では初夏になると、夜明けごろから投げ竿1本担いで短時間だけベラをねらうアングラーがかつては多かった。
ウロコを取り、エラと内臓を抜いたベラを1尾丸ごと素焼きや素揚げにし、玉ねぎやニンジンなど香味野菜とともに三杯酢でいただく、いわゆる「南蛮漬け」が明石流の食べ方。10数cmそこそこの小型なら、頭から丸かぶりで小骨も大して気にならず実に美味しい。
着底即アワセが数釣りのコツ
こんなベラを数釣るのにはコツがある。同じ投げ釣りでも砂底ねらいのキスやカレイとは違い、砂利浜やゴロタ浜がポイントで根掛かり必至。したがって使用するオモリはリールを巻けば早く浮き上がる「ジェット天秤」が主体。それほど遠投する必要もないのでウェイトは20号までの軽いものでよかったはず……と記憶している。重くすればそれだけ根掛かりのリスクも高くなるからだ。
仕掛は掛かりが早いキツネの2~3本バリで短ハリス。仕掛全長も短くてよい。こんな仕掛にエサのイシゴカイを短く(ハリ先からのタラシなし)切って刺し、おもむろに投げ込んだら、すかさずリールのベールを戻す。そしてラインを出すことなく、着底と同時にアタリがなくても間髪入れずアワセ(空アワセという感じ)を入れるのが、本場・明石の釣り人に教えてもらったベラ釣り必勝法。
仕掛を着底させて少しでも時間をおくと潮に流され根掛かりの原因になるし、瞬時にエサをかすめ取られるので釣果は上がらない。もちろん根掛かりが少ない砂底のポイントでも釣れるが、短時間で数を釣るならこの方法に勝るものはないはずだ。
かつてはベラ釣り船も多かったが……
現在は少なくなった(ひょっとしたら皆無かも?)が、明石市や淡路島の西海岸などからは、夏場になると播磨灘の浅いポイントにベラ釣りの遊漁船が多数出船していたのが懐かしい。(播磨灘から西の瀬戸内海中西部の釣り事情には詳しくないが…)瀬戸内海全域でキュウセン釣りは盛んだったはずだ。
そんな瀬戸内海の東端にあたる大阪湾側でも、以前からベラ釣りは普通に見られたが、本格的にねらっていたのは神戸市あたりから西に住む釣り人たち。大阪在住の人にはなぜか人気がなかったようだ…。さらに東の中部~関東エリアや日本海側全体でもベラ釣りは盛んではない。
しかし近年のハウツー書を見ると、大々的ではないものの魚のプロフィールと釣り方が掲載されていることもあるので、釣魚としての価値が見直されつつあるのかもしれない。
ちなみに南蛮漬けで食べておいしいベラのサイズは10数cmまでの小型だが、大きいものは刺身でもいけるようだ。また、ある投げ釣り団体の最大記録は34.7cm(魚拓寸)というから驚きだ。釣れたのは和歌山県の串本大島の外海側で、たぶんこれがマックスサイズだろう。来年の夏はぜひキュウセン釣りを!