あの釣りこの釣り古今東西 No.23 全国的に手軽な釣り入門魚だが
ハゼは典型的な“東高西低”

周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第23回は岸からの「ハゼ釣り」。汽水域を中心とした海釣りで、最も手軽な対象魚として多くの入門書や釣り雑誌に掲載されるが、どちらかといえば……というより完全に東高西低。とくに東京湾では関西では考えられないほどの人気があり、現在でも多くのファンが初秋のシーズン入りを待ちわびている。

「初めての海水魚はハゼだった」
という人は関西にも多いはずだが……

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出典:写真AC

50年以上前、少年時代に初めて釣った魚は、京都府は丹波地方の小河川でのハヤ(静岡市在住の祖父から父親が聞いた名前なので、正確にはたぶんウグイ・カワムツ・アブラハヤのどれかだったと思われる)だったが、海釣り(汽水域)で最初に釣ったのはハゼだったと記憶している。自宅から歩いて15分ほどの距離にある、兵庫県加古川知尻の右岸からウキ釣りでの話。
今振り返ればマハゼも少しは釣れたが、どちらかといえば、黒っぽくて地元では「ドンコ」と呼ばれるハゼ科の別の魚が多かったように記憶している。

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写真は大阪府の淀川。ハゼはたくさんいるが、ねらう人はそれほど多くないような気がする……

その後も海釣りを続け、チョイ投げのキスやカレイに始まり、さらに歳を重ねるうちに興味は外洋の磯釣りに移ったこともあって、ハゼ釣りをすることはなかった。
少年時代に購読していたしていた関西の月刊釣り雑誌には、多少ハゼ釣りの記事はあったのかもしれないが、成人して勤務した釣り週刊誌の編集部ではハゼ釣りの記事を編集した記憶がまるでない。たぶん関西でのハゼ釣り人気はそれほど高くなかったのだろう

江戸前のハゼ釣り人気は、食文化と密接な関係にある

対してハゼ釣りの人気が高いのは、東京湾を中心とした「関東エリア」だろう。毎年、初秋には必ずといってよいほどハゼ釣りの記事が掲載されているように思う。関西に比べ釣りの風情を楽しむ傾向が強い関東なので、秋の風物詩としてのハゼ釣り人気もうなずける。
また、「江戸前のハゼ」として天ぷら甘露煮など、古くから江戸の食文化には欠かせない存在だったことも、現在まで続くハゼ釣り人気の高さを支えているように思う。

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東京湾で盛んなハゼ釣りは、江戸前の食文化と密接な関係がある
出典:写真AC

釣りバリを使わない?
そんなハゼ釣りが宮城県松島湾に

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ハゼをねらうなら、投げ釣りやミャク釣りなど、釣りバリを使う釣り方が一般的だが…

そんな江戸前のハゼ釣りだけでなく、中部地方、関西地方でもハゼ釣りといえば、ゴカイ類をエサにしたかんたんな投げ釣りミャク釣りが一般的だが、東北地方は宮城県の松島湾では、一風変わったハゼ釣りが古くから伝わっている。最大の特徴はなんと「釣りバリを使わない」ことだ。

それを「ハゼの数珠釣り」という。アオイソメなどのゴカイ類を10匹ほど縫い針を使って束にし、「数珠」のように見えるゴカイの束2つを寄り合わせ、存在感たっぷりのダンゴ状になったアオイソメを海底に落とす。ハゼが大きな口を開けて、そのアオイソメダンゴにかぶりついたところで、ハゼがエサから口を離す前に釣り上げてしまうという突飛もない方法だ!
残念ながら実際にこの目で見たことはないのだが、テレビの画面越しに見て大変驚いたことを覚えている。大きな口を開けて大量のエサをほおばったハゼの顔が、実にユニークだった。

そんな唯一無二のハゼ釣りが今も伝わる仙台地方。お正月のお雑煮の出汁は、松島湾で獲れたハゼで取るのだという。昔からハゼが豊富に獲れた松島湾では、ハゼを丁寧に焼いてから、藁で結び軒下に吊るす「焼き干し」作りが盛んで、ハゼに対する思い入れは日本一なのかもしれない。

60cm超!日本最大級のハゼは、
九州・有明海や八代海のハゼクチ

余談だが、ハゼ科の魚には「ハゼクチ」という、とんでもなく大型になる種もいる。マハゼ属に分類されるこの魚は、最大で全長60cm以上(ちなみにマハゼの最大は30cm程度)にもなるという。九州の有明海八代海に生息していて、一部の投げ釣りファンには人気があるようだ。

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日本のマハゼ属最大の魚はハゼクチ。全長60cmにもなるモンスターは有明海や八代湾に生息する
出典:写真AC

とにかくハゼ科の魚は種類が多く日本だけで600種以上、世界には2000種以上も確認されており、海水淡水を問わず、古今東西ハゼなくして日本の釣りは語れないのかもしれない。