
周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第21回はアコウ(標準和名=キジハタ)釣り。ハタ科マハタ属のこの魚は青森県以南の浅い岩礁域に生息。ほかの多くのマハタ属の魚がおもに太平洋岸の外海に多いのに対し、キジハタは大阪湾や瀬戸内海などの内海に多いのが特徴。さらに外海だが日本海にも多く分布し、それらのエリアで人気の釣り対象魚になってる。今回は近畿圏を中心とした“アコウ”という魚の思い出を語ってみたい。
たまにハリ掛かりするだけ……
それだけに美味しい高級魚だった
アコウといえば、たとえばかつての大阪湾ではメバル釣りやハネ(スズキ)釣りのエビエサに、たまにハリ掛かりする程度の数少ない魚で、さらに「とにかく美味しい」ということも手伝って、とにかく希少価値がある“高級魚”というイメージが強かったように思う。

そんなわけで、ねらってもなかなか釣れない「幻」のような魚だったので「アコウ釣り」という独立した釣りのカテゴリー(一部にマニアがいたのかもしれないが……)は、きっちりと確立していなかったように思う。
個人的にもアコウを釣り上げたのは数えるほどしかなく、大阪湾では、どこだったか忘れたが沖堤防の夜釣り(おそらくチヌの電気ウキ釣りだったように記憶している)で小型が1尾だけ釣れた記憶しかない。
日本海のノマセ釣りで大型ゲット
ルアー釣り成立の予感……
実は日本海岸でも太平洋岸でもアコウを釣った……というより、どちらもたまたまハリに掛かっただけ。日本海は兵庫県の三尾という地区の磯。生きアジを泳がせてヒラマサをねらっていたときに偶然ヒット。これは50cm近い大型だった。本来、ハタ科の魚はフィッシュイーター! いま考えればアコウのルアー釣りが成立するのは当然といえば当然の話だったのだ。

太平洋岸では三重県尾鷲での磯の半夜釣り。オキアミのエサに食いついてきた(と、その当時は思ったが実は先にハリに掛かったエサ取りの小魚に食いついたのかも?)20cmほどの小型。ただし尾鷲の魚は、分布域的にもキジハタによく似た同属のノミノクチだったのかもしれない。

大阪湾での稚魚放流が
アコウ釣りを身近にした……
今や“アコウ”キジハタといえば、多くいるロックフィッシュのなかでも抜群の人気を誇るソルトルアー界のトップスターだ。あまりに黒潮の影響が強い太平洋岸には少ないようだが、あるときから大阪湾をはじめ、瀬戸内海でアコウねらいのゲームが各所で成立するようになり、そのトレンドが日本海にも飛び火したと考えてもよいのではないだろうか。

山陰地方には昔からアコウは多かったようだが、大阪湾など瀬戸内海で、アコウがねらって釣れるようになった(数が増えた)のは、あるときから。それまで水産試験場の主力事業だった(?)チヌ(クロダイ)の稚魚放流に代わって、アコウの稚魚が放流されるようになってからだと聞いたことがある。
とくに大阪湾や瀬戸内海では最大級のハタ科の魚なので、同じロックフィッシュのターゲットとして人気があるメバルやガシラ(カサゴ)にくらべれば、サイズもうんと大きく迫力があり、当然引きも強いので釣りごたえは満点。それでいて昔のように“幻”ではなく、ねらって釣れるようになったのだからアングラーが熱くならないワケがない……というのがアコウ釣り台頭のおもな理由だと考えている。


以前に比べると、うんと身近なターゲットになったアコウ。これから夏が釣りのベストシーズンなので、ルアーで、エサ釣りで、チャレンジしてみてはどうだろうか。クエに代表されるハタ科の魚独特のヘビーな引を味わってみるのも一興だ。
身は白身であっさり系。個人的には煮付けが美味しいと思う。