都内で「愛でる」釣りに興じる!?
釣り文化と伝統釣具、魚に特化した珍しい施設

釣り文化資料館_text-photo_和才浩美

和竿とは、主に竹を素材とし、日本独自の製法で作られた竿のこと。漆や絹糸をあしらうことで単に釣る道具というだけでなく、美術的な価値も兼ね備えた工芸品でもある。釣り竿を「愛でる」という楽しみ方があるのは日本だけかもしれない。

今回は、そんな和竿を思う存分「愛でる」ことができる場所が東京にあると聞いてさっそく訪れてみた。伝統的な釣具が多数展示されている「釣り文化資料館」と、同じ建物内に併設されている魚に特化した書店「SAKANA BOOKS」の2つを紹介したい。

後世に残したい、伝統的な和釣りの世界

散逸(さんいつ)の危機に瀕した釣具や関係資料を保存し、後世に残したいという思いから、株式会社週刊つりニュース創設者・船津重人氏が1989年に開設した「釣り文化資料館」。館内には船津氏が自ら収集した和竿、魚籠(びく)、書籍など約1000点が所蔵され、その一部が展示されていた。

収集したもののほかには全国から寄贈された伝統的な釣具も多数あり、釣りが好きな人はもちろん、伝統工芸品や歴史ある物が好きな人も楽しめるような施設となっている。

01_ DSC_3951.JPG 館内(引き)

釣り文化資料館

住所:〒160-0005 東京都新宿区愛住町18-7
TEL:03-3355-6401
HP:https://tsurinews.co.jp/shiryokan

02_ DSC_3934.JPG 看板

館内でまず目を引くのは、壁一面にずらりと並んでいる和竿。その種類と量に圧倒され、そして名工の手によって作られたその優美な姿からは、単に「魚を釣る道具」だけにとどまらない美術的な価値を感じる。

和竿の寿命はとても長く、きちんと手入れをすることで20年、30年と使用することができ、まさに「一生モノ」の釣り道具なのだそうだ。そんな今なお現役ともいえる和竿たちが、魚種や釣り方別に勢ぞろいしている。
加飾され、漆によって艶やかな光沢を放つ持ち手は、率直に「握ってみたい」と思わせるし、魚に違和感を与えないという竹竿のしなやかさを「触って確認してみたい」衝動にも駆られる。しかし、当然ながら売り物ではないため、ガラス越しに眺めることしかできない……なんとも残念だ。

03_ DSC_3952.JPG 和竿

そして、和竿コーナーの向かいには壁面いっぱいに魚籠(びく)や道具箱の類が展示されている。
魚籠はその用途によって竹の種類、形状、編み方もさまざま。使い勝手がよいように形作られたそれらは、現代の釣り道具にない佇まいがある。こちらも繊細な手仕事が生み出した美しい伝統漁具のひとつと言えよう。

また、タナゴやワカサギなどのいわゆる小物釣りの道具たちも、覗きガラスケースに並んでいた。
美しく扇形に並べられたタナゴ竿だが、この15本を継いで使用するのだろうか? ガチガチのツーピース竿で海底からタコを引っぺがすような釣りを得意とする私としては、15本継ぎの竿で感じるアタリとはどのようなものなのか想像もつかない。一時期シロギス釣りにはまっていたころは、「このプルプルがたまらない!」と悶絶していたものだが、もしかしたらその何倍も快感を得られるのかもしれない。

歴史ある美しい和竿や釣り道具からは、当時の釣り人が魚を釣るだけでなく、その道具にもこだわり、大事にしてきたことが伝わってくる。これらの道具を眺めていると、「今年の夏は和竿でハゼ釣なんていいかも?」と思ってみたり…。ここのところ挑戦したい釣りモノがなかったので、よいきっかけになりそうだ。

釣り人には「釣りを我慢しなくてはならない」ときがある。そんな日は、ここ釣り文化資料館で「愛でる」釣りに興じるのもいいかもしれない。

サカナに特化した本屋「SAKANA BOOKS」

08_ DSC_3939.JPG SAKANA BOOKS看板

一方、釣り文化資料館の入り口、ちょうど建物のロビーにあたる部分には、日本初! 魚に特化した本屋「SAKANA BOOKS(サカナブックス)」がある。
釣り文化資料館の入口スペースを活用し、魚をテーマにした本屋を開業すべくクラウドファンディングを実施。めでたく目標金額を達成し2022年7月にオープンした店舗だ。

取り扱う書籍は「魚」に関係するものなら何でも! といっても過言ではないほど多岐に渡る。大人でもそのタイトルに惹かれ思わず手に取ってしまいそうな絵本や、専門性の高い学術的なもの、魚をはじめとした水生生物に関する書籍や、それらが棲む自然環境に関するものなど、どれも店長である浦上さんが自ら選書しているそうだ。

実際に書籍を選ぶ際のこだわりについて、浦上店長に聞いてみた。

「読んでワクワクするもの、もっとその生きものを知りたいと想像の膨らむような本を選ぶようにしています。手元に置いておきたくなる美しい装丁の本や、著者の熱い思いが伝わってくる本を選ぶこともこだわりです。無闇に魚だからと注文するのではなくて、図書館や書店で手に取って読んでみて、心つかまれたものを選んでいます」とのこと。かなりのこだわりようが伺えた。

11_ DSC_3980.JPG 魚魚あわせ
魚偏(へん)の漢字を配したカードゲーム「魚魚(とと)あわせ」。江戸前版や紀州和歌山版、越前若狭版など各地方別にシリーズ化されており、地方別の読み方や郷土料理といった豆知識も学びながら年代問わず楽しむことができる

しかも、浦上店長がセレクトしたものは書籍にとどまらず、魚に関する雑貨や水産加工品も販売。常温で長期保存でき、調理も不要な焼き魚が本棚に違和感なく並んでいた。
そんななか個人的に気になったのはアヒージョの缶詰。魚の本を見に来たつもりが、なぜか酒の肴(さかな)を調達していた…、なんてことにもなりかねない(笑)。

12_ DSC_3949.JPG 焼き魚
13_ DSC_3948.JPG 缶詰
書棚に本と一緒にズラリと並ぶ水産加工品がまたオシャレ! ついつい本ではなく、美味しい酒の肴に目がいってしまう(笑)

また、雑貨のなかでも人気なのが、寿司屋の女将・ウオヒレウロ子さんが作ったという「ウオヒレコレクション」。本物の魚のヒレを乾燥させ、レジンでコーティングさせたものだそうだ。
仕入れた魚を処理するなかで魚のヒレの美しさに魅了されていき、やがて自然の造形美を活かしたアート作品が生まれた。そんな世界に1つしかないウオヒレキーホルダーは一番人気の商品で、入荷したばかりだというのにすでに残りわずかとなっていた。

さらに、1コーナーにずらっと並んでいるのは、日本全国にある水族館のパンフレット! 常時100種類くらい並べられており、全国的にも有名な水族館はもちろん、ちょっとマニアックな小規模施設のものもあるらしい。お客さんのなかには「自分の地元にこんな水族館があったんだ」と新たな発見にもつながるとか。

16_ DSC_3941.JPG 水族館のパンフレット

これらのパンフレットは、浦上店長が自ら各地の水族館に直接連絡し、取り寄せたものだ。店長いわく「ちょうどコロナ禍で、日本中の水族館で来場者数の減少が問題となっていました。何か力になれることはないかと思ったんです」とのこと。浦上店長のお魚とお魚に関係するものに対する愛は深い

また今後、SAKANA BOOKSレーベルの書籍の刊行を計画しているそうで、今年4月には第1弾が発行されるとのこと。それに合わせたイベント(内容検討中)も予定しているので、興味のある方はSAKANA BOOKSの公式Twitter(@SAKANABOOKS_)をフォローしよう!

SAKANA BOOKS

住所:〒160-0005 東京都新宿区愛住町18-7(株式会社週刊つりニュース1階)
TEL:03-3355-6401
HP:https://sakanabooks.jp/

※週刊つりニュースの代表電話です。ご用の際は、「サカナブックスについて」とお伝えくだい

釣り人を優しく癒す「釣り地蔵」

17_ DSC_3938.JPG 釣り地蔵

ところで、釣り文化資料館とSAKANA BOOKSがある建物前の植え込みには、綺麗なお花が供えられた何とも愛らしいお地蔵さまが鎮座していた。ほうきを持っているようにも見えなくもないが、ここは釣り文化資料館、きっと釣り竿だろう。
これからの釣りの安全、楽しい釣行を祈念して、釣り人なら1度は手を合わせたいお地蔵さまだ。
(大物を釣りたい! なんて厚かましいお願いは控えたので悪しからず…)

18_ 伝統的な釣具一式

時代の流れとともに、カーボンやグラス製の竿が主流となり、釣りやすく(釣れやすく)なる一方、このような日本独自の製法で作られた伝統的な釣り道具は、その機能美と粋なこだわりから、今なお根強い和竿ファンが多いことを教えてくれる。そして美しい工芸品に歴史を感じる一方、併設されているSAKANA BOOKSでは、店長が「釣り」にこだわらずニュートラルかつユニークな着眼点で選んだ魚の本や雑貨のラインナップが面白い。
今回訪問した「釣り文化資料館」「SAKANA BOOKS」は、見るのも、釣るのも、食べるのも好きな私にとってはひじょうに魅力的な空間だった。

入館無料で駅からも遠くないため、釣りに行けないような日があれば、ここでまた一味違った「愛でる」釣りに興じてみるのはいかがだろうか。