それでは、釣ってみせましょう!
興奮冷めやらぬなか、いたって平静を装っていた私だが、いよいよ次のステップがやってきた。
そう「4.実釣による個体の種類・サイズの確認」である。
魚探に大型の魚礁が映り、海中の映像でも魚がいることがハッキリした。「あとは釣るだけ」である。「勝手に押しかけて来たんだから、当然釣るよね?」 優しい調査メンバーのみなさんは、そんなことはひと言も言わないが、私の頭の中は勝手に自虐的プレッシャーを与え始めている。緊張である(汗)。調査優先のため、普段のように潮の干満を意識することもできず、時合いも分からない。念のために船長に確認したところ、「最近は日の出前後に青物がパタパタっと釣れるかな~」と、何とも心細く期待薄なお返事・・・。兎にも角にもご期待に応えるべくやるしかない。ということで、みなさん一人一人に異なるタックルセットを手渡し、バラエティ豊かに竿を出していただいた。
「来れば一発っ!」と思っていたが、案の定そんなに上手くいくわけはない・・・。私は鯛ラバで探っていくが反応はなし。他の方には、インチクをしていただいたり、胴突仕掛でのエサ釣りをしていただいたり、サビキ仕掛で誘っていただいたりと、思い当たるいろいろな作戦で竿を出していただいたのだが、どれも反応はない・・・。短い時間のなか、私の頭はフル回転で次の手を考えながら釣りをしていたところ、熊谷さんの竿に待望のアタリがっ! なかなかの引きごたえに楽しそうな熊谷さん。慎重に寄せてきた魚は、映像にも映っていた立派なウマヅラハギだった。口が小さくアタリを取るのも難しい魚だが、見事釣り上げて下さり少し私もホッとできた次第だ。
しかしその後アタリは続かず・・・。メンバーである現場チーフから「後30分でーす」と号令がかかり、余計に焦る私。何とか期待に応えなければ立場がないと、あの手この手で釣りを続けた・・・。沈黙を破ったのは私の友人。終了間際に鯛ラバを巻いていた友人は、底付近で何かを掛けた模様。それなりに竿先を叩いていたため、良型の根魚かと思われたが、上がってきた魚は何とチダイ。嬉しい2種類目を追加したのだった。
残念ながら、何の役にも立たなかった私。大変申し訳ない・・・。
実釣調査の後は、最後の「5.水質調査」である。調査対象である魚礁周辺の水質を分析するステップで、いかにも普段からやっている慣れた手つきで、友人と現場チーフが「多項目水質計」と呼ばれる専門の機器を投入。一旦海底まで降ろした後、引き上げるのだ。
多項目水質計には、水深1mごとに細かく計測した各項目の情報が蓄積されている。引き上げた後、蓄積されたデータはプリンターへと吸い出され、備え付けられたロール紙に印字(=記録)されるといった具合である。ちなみに記録される情報とは、「水温」「塩分」「クロロフィル蛍光(値)(*1)」「溶存酸素(量)(*2)」などの情報だそうで、それらがつぶさに印字され、友人と現場チーフは最後の締めくくりとなる当ステップを、気を抜くことなく真剣にこなしていた。
現場チーフの「お疲れさまでした~」という挨拶とともに、滞りなく全ての調査ステップが終了。さまざま貴重な現場を拝見させていただいた私は、興奮と疲れと魚が思ったように釣れなかった悔いを抱きつつ、皆さんと一緒に帰港したのであった。
*2.水中に溶解している酸素のこと。水温が上昇したり、微生物による有機汚濁がすすむと濃度が低く(≒酸素量が少なく)なり、水中生物に影響を与える。例えば、夏場汚れた港湾奥などで魚が壊死している光景をたまに見かけるのがその一例だ。
人工魚礁って大変なんですね
さて帰港途中、朝からの出来事を振り返りながら、時間もあるためさらに熊谷さんに魚礁について教えていただいた。
D: 魚礁を設置するにあたっての難しさってなんでしょうか?
K: そうですね~。魚礁はそれなりに大きな構造体ですが、設置する海域やポイントにより、条件がマチマチといったところでしょうか。
D: 条件と言いますと?
K: 設置する予定の場所はどこも、底質や傾斜が異なります。砂や泥、礫、岩盤などさまざまな底質で、しかも全てが平らというわけではありません。また、過去の統計から年間の潮の強さや波の高さなども割りだし、設置に十分な対策を施す必要も出てきます。さらには、お客様である漁協さんや県庁さんからの要望にできるだけ応えるため、魚礁をカスタマイズし、造り込まなくてはならないんです。
D: 魚礁をカスタマイズまでするんですか~。
K: 幸い当社は、数多くのパターンに対応できる商品をラインナップしておりますし、カスタマイズしやすい構造というのも特長ですので、オーダーに応えやすいですね。
D: 恐れ入りました。
こうして終えた今回の魚礁調査。普段目にすることのできない現場と、耳にすることのできない貴重なお話をお聞きし、私にとって非常に刺激的な体験となったことは言うまでもない。
われわれ釣り人は、レジャーやレクリエーションとして釣りに触れ合い、楽しく遊ばせていただいている。魚礁の周りで魚を狙い、良型が釣れるなどオイシイ思いをした経験も少なからずあるだろう。しかし、われわれが楽しませていただいている世界のほんのご近所で、人々の生活を守るため、豊かな自然や漁場を守るために活躍されている方々や企業が存在することを、今までご存知だっただろうか?
「外遊び」は、自然があるからこそできる遊びである。そして、自然が豊かであればあるほど楽しい。これから先も、変わらず楽しく遊ばせていただくために、こうして魚類保護の一翼を担って下さっている方々と豊かな自然への感謝を忘れることなく、また場合によっては恩返しをしながら、大好きな釣りを続けていきたい。改めてそう痛感させられた貴重な機会となった。
※本文は都合により脚色を交えております。ご了承下さい。
取材協力:
神鋼建材工業株式会社
海洋製品営業室 主管 熊谷明生 様
URL http://www.shinkokenzai.co.jp/