いよいよ調査開始! その一部始終
さて、そんな貴重なお話を伺いつつ、調査の準備は着々と進んでいく。友人を含め、調査メンバーのみなさんは、私とは違い慣れた手つきで、かなりの重装備であろう専門の調査機器を船に積み込み、定刻どおり港を出発。並走するウミネコとともに、現場となる海域へと船首を向けて船を走らせた。
お聞きした今回の調査内容は、次のとおりである。
2.魚探による水深、形状、配列の確認
3.無人探査機(ROV)による魚礁の状態確認
4.実釣による個体の種類・サイズの確認
5.水質調査
釣り以外、いったいどんなことを行うか、この目で見るまでは分からない内容であるため、極力足手まといにならないように少々緊張しながらの船旅である。
ほどなくして現場の海域に到着。早速「1.GPSによる魚礁位置の特定」からスタートである。船のGPSといつの間にかみなさん手にしているモバイル型GPSの画面を、真剣なまなざしで見つめつつ、調査資料の指示する座標を確認している。すでにプロの顔つきだ。座標が読めない私にとっては待つだけの時間ではあったが、この広大な海の上で、目標となる魚礁を探すのは、まるで宝探しのような光景だった。「そんなに簡単に見つかるの?」と内心やや疑心暗鬼であったが、さすがそこは調査のスペシャリストたち。やや苦労はされていたものの、見事にお目当ての魚礁をズバリと突き止めた。恐れ入ります。
そして続いては、「2.魚探による水深、形状、配列の確認」の開始だ。今回の魚礁は、神鋼建材工業さんの主力である「タワーシリーズ」。タワーシリーズという名のとおり「デカイ!」 なんと高さ16.5m(型式:E800LT)と高さ10m(型式:E600LT)もある2タイプで、バッチリ魚探に映る大建造物である。この調査では、数年前に入れられた魚礁がしっかりと配列(=並び)を保ち、形状に変化がないかを確認するもの。そして、魚探に魚が映るかを見るものであった。総質量20tや30t近くある建造物で、耐久年数も30年という頑丈な構造(これまた教えていただいたのだが)。よほどのことがない限り、そうそう移動したり破損したりすることはないそうだ。そのお話のとおり、魚探ではその立派な形のまま、そびえ立っていることが確認できた。
しかし釣り人として、それより気になるのは魚の姿・・・。魚礁の周りに魚が集まるそのことを「蝟集(いしゅう)反応」と呼ぶのだそうだが、見事に魚礁の周りに魚の反応が出ているっ! 魚礁が魚礁として機能している証として、メンバーみんなの表情が「にんまり」笑顔になった瞬間であった。
さて、私が更に驚いたのがここからである。「3.無人探査機(ROV)による魚礁の状態確認」というステップだ。
「Remotely Operated Vehicle」の略であるROVと呼ばれる無人探査機が、実際に水中に潜って遠隔操作され、魚礁の姿を映像として見ることができるというもの。われわれ釣り人にとっては一番見てみたい、そして興味深い水中の世界を覗くことができるとあって、楽しみにしていたステップだ。
日本に数台もない高価で貴重なハイテクマシンを、調査メンバーが船尾から投入し、それを専門家の方がパソコン端末に映し出される情報を頼りに操作していく。まるで某人気ゲーム機のようなコントローラーのジョイスティックを巧みに操り、真剣な面持ちで丁寧に操作していくのだ。高価なマシンとあって、万一の失敗も許されない。「10m、20m・・・、ストップ」と合図を送りながら徐々にマシンを進めていく。緊張感のある作業だ。すると、画面の先に何やら人工物らしきものが映し出される。まるで宇宙船から見た謎の古代遺跡のような形をしたその人工物は、徐々に形をあらわにし、ROVが進むごとに魚礁であることがハッキリと分かるほど鮮明に画面に映し出された。海中の奥深いところに、巨大な建造物がたたずむ姿は、何だかとても不思議で、ふと、昔見た映画『アビス(ジェームズ・キャメロン監督:1989年)』を思い出してしまった。それくらい神秘的な映像に感じられたのだ。しかも、普段釣りをしながら海の底を想像するに、おおよそ「海の底は光が届かず、ほの暗く、エサやルアーの存在は視覚よりも波動の方が優位に伝わっている」という発想を持っていた。しかし、海域の水質や天候にもよるだろうが、水深が60m以深あるにもかかわらず、思っていたよりも「光は届き、若干色が判別できるほど鮮明」であったという事実。(ROVの映像センサーも優れているためと思われるが)映し出されたウマヅラハギやイシダイの色や姿が非常にクリアで、本当に驚いたのだった!!
(続く…)
取材協力:
神鋼建材工業株式会社
海洋製品営業室 主管 熊谷明生 様
URL http://www.shinkokenzai.co.jp/