「魚いっぱい付いてますねー。あっ、コレはウマヅラハギ。コッチはイシダイですね」「それにしても、こんなに鮮明に見えるもんなんですね。魚礁が立派な魚の高層マンションに見えます」
本来は長雨に悩まされてもおかしくない6月。梅雨の最中の晴れ渡った空の下、とある海域でひょんなことから、なかなか普段経験することのできない貴重な現場に同行させていただくことができた。船の上で水中映像が映し出されたハイテク機器の画面を、食い入るように覗き込む一行の会話だ。
実は今回、私の友人のつてで、「人工魚礁調査」に同行できる機会をいただいたのだ!! 趣味を通じて知り合った友人との会話のなかで、友人が水生生物の調査・分析、環境調査を専門とする会社に勤めていることを知り、「へぇ〜!?」 となった。しかも近々、クライアントさんからの依頼で、人工魚礁の調査を行う予定とのこと。その調査の過程では実際に釣りをするという場面もあるという。「何とっ! それならばぜひ釣りをさせてほしい!!」と、無理を承知でなかば強引にお願いをしてみたのがきっかけであった。
とはいえ、専門の調査現場に私のような素人がお邪魔できるのかと心配していたところ、調査依頼されたクライアントさんの多大なるご好意と、友人が上手く掛け合ってくれたこともあり、本当に実現してしまったから驚いた。
人工魚礁とは? 魚礁の役割
このような経緯で、初めての魚礁調査というなかなか経験できない現場、そして、「いったい、海中と魚礁はどうなっているのか?」という最大の興味を、釣り人代表(?)としてこの目で見、体感できる機会を与えられたことは大変光栄だ。感謝!! そんな私の勝手な押しかけに、快くご承諾下さったのは、総合建材メーカーとしてご活躍される『神鋼建材工業株式会社』さん。「ガードフェンスから魚礁まで」幅広く安全で高品質な各種建材を取り扱う大手企業だ。今回ご担当の、海洋製品営業室 主管 熊谷明生さんは、滋賀県のご出身で、幼少期から水辺で育ち、水生生物に興味を持ったことをきっかけに、学生時代も淡水だけでなく海洋についても深く研究されたスペシャリスト。そんな熊谷さんに、調査の準備中や現場で、「そもそも魚礁とはどのような役割を担っているのか?」について少しだけ教えて頂いた。
D: 人工魚礁はひとことで言うとどういったものなのでしょうか?
熊谷さん(以下:K): はい。簡単に言うと、魚に良い棲みかとして留まってもらうためのお家ですね。お家として留まってもらうためには、棲み心地が良くなくてはいけませんので、エサとなるプランクトンを滞留させるだけでなく、棲みかとして隠れやすい構造も大切になってきます。
D: なるほど。棲みやすい環境を提供するということですね。具体的にどのような仕組みなのでしょうか?
K: まず、潮の流れる場所に魚礁を設置することが大切です。潮が魚礁に当たり、湧昇流(ゆうしょうりゅう)が発生することでプランクトンを滞留させ、プランクトンを求めてやってくる魚も溜まりやすいという仕組みです。食物連鎖ですね。
また、魚が隠れやすいようにトラス(*1)の組み方を工夫したり、場合によっては木材を活用するオプションなども可能です。
他にも、底物の魚や根魚が棲みやすいように、石材や貝殻、多孔質ブロックなどをユニットとして増殖できたり、釣り人におなじみのヤリイカやアオリイカなどの産卵基質の追加など、魚を留め海藻が育ちやすい環境づくりのために、さまざまなカスタマイズが可能とのこと。そして何より、神鋼建材工業さん最大の特長は、魚礁の中核をなす「4本のタワー構造」だそうだ。魚礁の中心の柱を4基の直方体タワーユニットで立ち上げることで、複雑な渦流を生み出し、より長くエサとなるプランクトンやそれらを追う回遊魚が滞留してくれるとのこと。このような構造体は神鋼建材工業さんが先駆けだそうだ。
正直、魚礁についてのこれまでの私のイメージは、適当なサイズのコンクリートブロックや石、岩を山のように積み上げただけのものだろうと、勝手に想像していたため、想像をはるかに超える科学的根拠にもとづいたお話しに、開始早々驚きの連続であった。と同時に、私の知識のなさに恥ずかしいばかり。申し訳ない・・・。
(続く…)
※写真提供:神鋼建材工業㈱
取材協力:
神鋼建材工業株式会社
海洋製品営業室 主管 熊谷明生 様
URL http://www.shinkokenzai.co.jp/