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周囲を海に囲まれたわが国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえる。しかし同じ魚種をねらうにしても、さらには同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。そこで「あの釣りこの釣り古今東西」と題して、時代とともに移り変わる日本各地の釣りスタイルや地域による考え方の違いを独自の視点で掘り下げてみたい。
第1回目の今回は、サビキ釣り仕掛のマキエカゴの位置についてお届けしよう。
竿下ねらいも飛ばしサビキも
上カゴの関東と下カゴの関西
アジやイワシ、サバなどを防波堤や護岸からかんたんにねらえる「サビキ釣り」は、手軽な釣りの代表として文句なく全国区だ。ちなみに大阪湾岸でサビキ釣りが一般的になったのは昭和40年代半ばぐらいだと思われる。
※サビキ釣りのルーツに関しては
「目指せ!擬似餌マスター 第1回 來田仁成さん(故人)に聞く サビキのルーツと普及・流行のきっかけ」
をご覧下さい。
今から50年ほど前に一般的になったサビキ釣りだが、流行当時からかは不明だが、長らく東と西、すなわち東京湾や相模湾を中心とした関東方面と、大阪湾、播磨灘を中心とする関西では、そのスタイルに違いがあった。
魚を仕掛の近くに集めるためのマキエ(コマセ)カゴの位置が正反対だったのだ。仕掛の最上部にカゴを付ける関東流に対し、仕掛最下部にカゴを取り付けるのが関西での定番だった。
これは飛ばしウキを付け仕掛を沖に投げて広範囲を探れる「飛ばしサビキ」という進化形のサビキ釣りになっても、そのスタイルは継承された。
持続的に食わせるか?一気に勝負か?
マキエポリシーの違い
サビキ釣り黎明期に関しては定かでないが、カゴに入れるマキエ(コマセ)はアミエビが全国で一般的だ。アミエビのニオイにつられ集まったアジやイワシたちを、仕掛に等間隔で数本取り付けられたバケ(擬似餌)付きのサビキバリに食い付かせる釣りなのは、ご存じのとおり。
そこで上カゴ、下カゴそれぞれの魚の集め方、すなわち水中でのマキエの拡散がどのように違うのかを考えてみたい。
まず上カゴ。仕掛上部のカゴから徐々にこぼれたマキエが、下の仕掛に向かい沈下する。これは理にかなっており、磯釣りなどでみられるカゴ釣り(上カゴの下にあるハリス、ハリにオキアミなどのエサを刺す)同様に、こぼれ出たマキエが絶えずハリのほうに降り注ぐかたちになる。つまり長い時間、マキエ効果が期待できるわけだ。
一方の下カゴ。カゴを海に落とすことで、カゴのマキエが水圧により放出されながら沈下する。すなわちマキエがこぼれたゾーンを追うようにサビキ仕掛が通過しピタッと重なるというものだ。しかし、カゴのマキエが一気に出きってしまうことも多く、仕掛がマキエゾーンにある時間は上カゴにくらべ短いと思われる。
ただ実際にはカゴ内に入れたマキエは、その粘度や密度でカゴ内に多く残ることもあり、仕掛を沈めてから竿をあおって(シャクって)、残ったマキエを出す作業が必要なのはこのためだ。これは上カゴの関東流にも同じことがいえる。
江戸っ子と浪速っ子
ともにせっかちだが……
なぜ、このように東西で違いがあるのだろう。そこで思い当たるのが関東人と関西人の気質の違い。
気が短い? チャキチャキの江戸っ子は別にして、関東圏には各地方から多くの人間が集まるので、実際には気の長い人も多いのではないか。
対して関西。代表的なのは浪速っ子。もちろん地方から移り住んだ人もいるが、商人の町といわれるようにお得なものには目がなく、基本的には実にせっかちなのだろうと思う。
だから「じっくりマキエに魚を寄せスマートにねらいたい」という関東と、「マキエをどんどん入れてとにかく魚を寄せたもん勝ち」という関西の気質の違いが、サビキ仕掛の上カゴ、下カゴの違いを生んだのだと個人的には思うのだが、さてみなさんはどうお考えになるか?
初心者に優しいということで
東でも下カゴ派が増えつつある
ただ近年、関東でも下カゴ派が多くなっているようで、これは下カゴのほうが仕掛がシンプルで初心者には扱いやすい、釣りやすいという理由のようだ。
下カゴ式の場合はカゴとオモリが一体になっているが、上カゴの場合は最下部に仕掛を沈めるためのオモリが別に必要というひと手間がある。面倒でもこれを苦にしない? 苦にする? というあたりにも、何か東西での釣り人の気質の違いが隠されているのかもしれない。