From HEAT the WEB DIRECTOR 今何が求められているか?
釣り業界人の「品格」とは…を考える

釣り人シルエット・業界人の品格_text-photo_岳原雅浩

好きが高じて足を踏み入れた「趣味」の世界において、特異な専門用語、独特な価値観やルールを知っていなければ、なかなか深く楽しむことができない現実。われらが「釣り(業界)」においても同様であり、そのため気軽に踏み込めないハードルの高さもネックだ…。
昨今言われているこのようなジレンマに対して、今、釣り業界人として求められている品格とは一体何か…? 勝手ながら私スタッフDの思うところを、徒然なるままに語らせていただきたい。

ご興味のある方、お時間のある方はどうぞご覧ください。(あくまでいち個人の考えですのでお手柔らかに)

釣り業界では、従来から専門用語が多い…

01_ 雑誌の羅列

竿やリールなど専用の道具を必要とする「釣り」は専門性が高く、また、少なからず知っておかなければならないルールや共通認識のため、特殊な言葉が多いのは致し方ない。しかも欧米からのスポーツフィッシング文化の流入により、横文字(≒英語)の使用率がひじょうに高いのが現状。
しかしながら、それら横文字は決してネイティブの使う英語というわけではなく、あくまでわれわれが意思疎通を図りやすいようにアレンジした「和製英語」であることが多い。

02_ カタログのミミ

例えば、「エギング」や「メバリング」「アジング」に代表されるように、「○○○ING系」の言葉は大変多く、各ルアー系釣りジャンルを言い表すのにたいへん重宝されている。また、「ダウンショット」は正しくは「ドロップショット(drop shot)」だったり、「ドッグウォーク」は「ウォーキングザドッグ(walking the dog)」、「フッキング」も「セットザフック(set the hook)」が正しかったりと、本来の英語とはやや形態を変えて使用されている。慣れてしまえば、われわれ日本人に理解しやすいように変化した言葉、すなわち専門用語は重宝するが、慣れるまではカタカナの応酬で難儀する…。

意思疎通が図れてこその共通語
どこまで伝わってる?

とは言え、釣りは「趣味」である。趣味を楽しむために、多少なりとも技術的なことや使う道具について専門用語を知らなくてはしょうがない。野球を楽しむためにそのルールを知らないと、バットを振った後に「さて、右に走るべきか、左に走るべきか…?」が分からないのと同様。私もかつてはバスフィッシングの専門用語を覚えるために、バス専門誌を読み漁ったのを覚えている。
しかし、ここでふと気になったのが「専門用語・和製英語・造語が多く、カタカナ・横文字の応酬である釣り用語は、果たして本当に伝わっているのか…?」ということ。

03_ 会話をしている2人
出典:写真AC

伝わらなければ相手とのコミュニケーションも取れず、意思疎通が図れない。釣り人同士ならまだしも、釣り人以外の方に釣りの話をする場合は、世間での釣りの認知に支障をきたすということにつながるのではないか? その意味で、今後のレジャー市場において、われわれは業界人としてのあり方、すなわち「品格」が問われているのかもしれない。

求められるベースとは?

04_ 魚をさばくシーン

釣り業界人の資質として、「釣りができなくてはならない」「魚をさばけなくてはならない」「潮見表が読めなくてはならない」など、イコール「釣りのプロである」とみなさんお思いかもしれない。しかし、業界人として求められていることは、決して釣りの上手さではないと思われる。

05_ 商品の寄り

確かに、釣りができ上手であるに越したことはなく、釣りのことを最低限知っている必要はある。しかしそれよりも、人として当たり前に「相手=お客様」のことを第一に考えることができる「思いやり」を持つことの方が何よりも重要だ。

われわれはお客様のニーズに合わせたモノ作りをし、評価いただいた商品に対価をお支払いいただいている。そのお客様の立場に立った思考、ニーズをくみ取りウォンツを満す、物事を分かりやすく上手く伝えるといった、これら「思いやり」を持つことは、どの業界、どの企業に属しても変わらない。
「思いやり」をベースに、まずはこれら姿勢が求められているのではないだろうか。

いい意味でパッションはほどほどに

では、他に求められるものは何だろうか? 先に述べたこととやや矛盾するように聞こえるかもしれないが、それはやはり「釣りが好きだ!」「釣りを楽しみたい!」「釣りの魅力を伝えたい!」といったパッションではないだろうか。

06_ 釣りシーン、または楽しそうに釣っているシーン

われわれは、現実に毎日釣りをするわけではなく、釣りができるできない、上手いヘタという機会やスキルを競っているわけでもない。それよりも、「釣りに関わっていきたい」「好きだ」というモチベーションが高ければ、それでよいということ。

しかし、いくら「情熱」があるからといって、自分本位ではいけない。好きな釣りのことを理解してもらおうと、至極当然に釣りの面白さを語る場面があるが、得てして語り過ぎることも多い。そしてその際、自分の実体験や釣果をともなって語るため、結局「俺凄いだろっ!」ととらえられてしまうことも多い…。やはり、「○○釣りをすれば、もしかするとアナタにとって楽しい時間になるかもしれないよ」くらいの提案レベルにとどめ、無理強いをせず、魅力をにおわせる程度にひかえることが肝要だ。そうすれば、相手から「もっと聞きたい」と思っていただけるかもしれない。

07_ 釣りを語っている姿

釣への情熱を大切にしつつ、ほどほどのさじ加減で釣りの魅力を伝える…。なにが優位ということではなく、あくまで相手の欲求を満たしてあげれるか。ここにも「思いやり」の心が潜んでいなければならない。

伝える力と応える素養

結局、相手のことを思いやるとは、「相手の立場に立って物事を考え行動する」ということであり、主観ではなく客観での話だ。客観的に行動するうえで気をつけるべき一つとして、「コミュニケーション」が存在するといえる。

08_ フィッシングショーでのトークシーン

われわれが最終的に釣りや釣り業界のこと、そして自分自身のことを知ってもらうためには、まず「伝える」ことが第一歩となり、伝えるためには相手(=お客様)の立場に立つ「思いやり」が求められる。そして、伝えるべき情報そのものに「魅力」があれば、相手は深く知ろうとしてくれるのではないかと考える。

09_ 釣りシーン(逆光シルエット)

そのような意味においては、まずはわれわれ自身が釣りを「楽しむこと」が一番大切だ。
どこまでいっても「遊びであり」「レジャーであり」「レクリエーション」である釣りを、自分自身が心から楽しんでこそ、お客様にその魅力や楽しさを伝えることができる。求められる「思いやり」や「情熱」を育むために、利害やエゴとは切り離して「純粋に楽しむこと」も重要なのだ。

今後どうあるべきなのか?

10_ PCキーボード

今、日常生活におけるIT化や通信の高速化から、常に情報は飽和状態。エンタメだけでなく興味をひくコンテンツがひじょうに多く、当然ながら趣味の多様化も著しい。そんななか、お財布事情だけでなく時間と労力を必要とするスポーツ・レジャー業界は、参加人口減少の一途をたどっている。
決して釣り業界だけではない悩ましい問題ではあるが、「釣りが好き」という純粋な気持ち、そして「楽しさ」を伝えるための「思いやり」でもって、趣味のハードルを下げ、誰にでも釣りに触れるチャンスを提供する活動から始めたい。

11_ 子供と楽しそうに釣りをするシーン

閉ざされた世界の中で満足するのではなく、開かれた外の世界に向けて情報を発信し、チャレンジし続ける。そのような『外へ目を向ける』姿勢と同時に、外の世界でも通用する『常識やモラルを磨く』姿勢が、これからの業界人に求められる「品格」といえるのかもしれない。

 

今回は、ちょっと啓蒙的で堅苦しい話になってしまい恐縮だが、お許しいただきたい。というわけで、そろそろお仕事に戻るとしよう。
 「さて、私はこれからアジング広告のデザインコンセをチェックバックでもしますか……。 おっと(笑)」。

 

※本文は個人の見解によるものです。ご了承下さい。