日頃から釣り業界で働き、多少なりとも物書きをしていると、魚や海にまつわる言葉にはかなり敏感で気になるもの。しかし、私の勉強不足と知識不足で、まだまだ知らない言葉が多く、魚の漢字にいたっては読めないものが多過ぎる・・・。その反面、これだけ魚や海にまつわる言葉と漢字が多いということは、それだけ日本が海に囲まれた島国であり、魚が私たちにとって身近な存在であり続けてきたのだと、つくづく感じさせられる。
そもそも「さかな」とは…
聞いたところによると、そもそも「さかな」とはもともと「酒菜」と書いていたそうで、酒のつまみを意味していたそうだ。その酒の肴に、魚肉を使用することが多かったため、しだいに魚肉を「さかな」と呼ぶようになったという。試しに広辞苑で「さかな【魚・肴】」を調べてみると、「①.酒を飲む時に添えて食う物」「②.酒席の興を添える歌舞や話題など」「③.(魚と書く)(食用の)うお、魚類」とある。意外なことに、「魚」の意味よりも「肴」の方が先にくるとは驚いたしだいだ。
そんななか最近覚えた言葉がある。よく仕事で忙しそうにしている人に声を掛けると、「今、忙しいからムリっ!」とか、家庭でも、たとえば「リールを買うためにお小遣い上げてくれないかな~」と奥様に精一杯の低姿勢でお願いしてみても、「はぁ?何いってんのっ!!」と無下にされることがある。そのようなそっけない態度のことを「にべもない」と言い表す。勘の良い方なら既にお気づきかもしれないが、この「にべもない」の「にべ」、実は魚のあの「ニベ」だそうだ。知らなかった・・・。
スズキ目ニベ科の魚である「鮸(にべ)」は、釣ったときに体表にヌルヌルとした粘液がついていることからも想像できるように、鰾(うきぶくろ)も粘り気が強く、古来、接着剤の膠(にかわ)の原料として利用されてきたそう。その粘着力の強さから、ニベは他人との親密さや愛想を意味するようになり、「にべもない」と否定表現で使うことで、「無愛想でそっけない」という意味に転じたそうだ。
ちなみに、よく混同しがちなのは標準和名でシログチとニベ(ニベ科の魚類の多くがイシモチと呼ばれる)。姿形が似ており、同じスズキ目ニベ科に属す魚だが、別種の魚なのでお間違いなく。(写真はシログチとニベ。エラブタ上端に暗色斑があればシログチ、ないのがニベだそうだ)
困った様子をたとえた言葉は?
また、こんな言葉もある。あるたとえ話だが、友人と随分前から釣りに行く約束をしていたある予定日。突然家族で出かける話が奥様から持ち上がった。慌てた夫は、「その日は友達と釣りに行こうかと思ってたんだけどな~ぁ」と冷や汗を隠しつつ切り出してみる。すると奥様は、「釣りと家庭とどっちが大事なの?釣りはいつでも行けるでしょ」と、つれない返事・・・。こうなっては、もうそれ以上返す言葉もなく、しぶしぶ何事もなかったかのように友人との釣りを諦めるしかなかった・・・。こんなふうに、冷たくあしらわれ、話を次に進めるきっかけも見つからない状況で使うのが、「取りつく島もない」という言葉。船で海に出てみたものの、たどり着くべき島がなく途方にくれてしまう、そんな困った様子をたとえた言葉だそうだ。
平成30年2月から、いよいよ日頃お世話になっている遊漁船で釣りを楽しむ際、甲板上では原則としてライフジャケットの着用が義務となる。もし万一落水をした場合、ライフジャケットを着用していない場合よりも着用している場合の方が、生存率が格段に上がることから、必ず着用したい。しかし、それでもいつ何時、海に放り出される事態があるか分からないため、くれぐれも注意は必要なのが現実。そこで少し想像していただきたい。もし海に落水し、船に気付かれずに大海原で置き去りにされてしまったら・・・。もし、必死で周りを見渡しても、泳いでたどり着ける陸地がなかったとしたら・・・。思わずゾッとしてしまう。
そんな極限状況を考えるのは、やや心配性なのかもしれないが、「取りつく島もない」とは、そのような意味と覚えておくと、われわれ釣り人には覚えやすい言葉ではないだろうか(笑)。
※ライフジャケット着用義務の詳細は国土交通省HP:http://www.mlit.go.jp
とまあ、他愛ない妄想が膨らみ過ぎてしまったのはご愛嬌。冒頭でも述べたが、日本語には魚や海にまつわる言葉は数知れず。今後もさまざまな場面で、これまで私が知らなかった言葉に出会えそうで楽しみだ。
さて、あなたはどれくらい魚と海にまつわる言葉を知っているだろうか?
※本文は都合により脚色を交えております。ご了承下さい。
出典:
新村出編 (1997) 『広辞苑』第4版 岩波書店.
語彙力向上研究会 (2017) 『できる人の語彙力が身につく本』 三笠書房.