毎年、年末年始のカタログ製作やフィッシングショーがひと段落するまで、なかなか釣りに行けなかったのだが、この冬は幸いにも担当が代わり、比較的余裕があるはずで、のんびりと釣りを楽しむつもりだった。ところが、結局のところ2017年の広告計画を立てたりその他の諸事情から、例年同様釣りには行けず、あっという間に春を迎えつつある。桜前線の訪れとともに、春の陽気と花粉の飛散という、喜びと哀しみの狭間で一喜一憂する今日この頃なのだ。
春が近づくと、自ずと釣りの取材もスタートを迎える。広告担当として、当社の方向性や新製品の発売予定を加味し、取材の予定を組んでいくのである。思えばかれこれ10年以上担当をしているが、実釣取材という現場の活動の中で、色々な出会いや刺激的な出来事、そして経験をさせていただいた。春からの取材が、私にとっての本当の新年スタートとも言えなくはないこのタイミングで、少しだけ過去を振り返ってみようと思う。
釣りの取材と言えば、皆さんはどのような想像をされるだろうか?釣りの現場に行って、カメラの前で楽しく釣りをし、釣り上げた魚を笑顔で撮影してもらう…。そんなイメージだろうか。私もそのように想像していた一人。
担当になって間もなくのこと、以前スポンサーをさせていただいていた某TV番組で、「タレントさんとの海上釣堀取材」にお呼ばれしたことがあった。有名なタレントさんとのお仕事として、やや緊張感はあるものの、ミーハー気分でお会いできることを楽しみに参加させていただいた当取材。前日の晩から宿泊し軽い宴会が催されたのだが、主役のタレントさんはTVでの姿からは想像できないほど物静かで穏やかなご様子。宴会中も特別テンションが高いわけでもギャグを飛ばすわけでも無い。その日は不思議に感じつつも、和やかな宴会は終了した。
ところが翌日。朝早くからの取材にもかかわらず、いざカメラが回り始めると、ギラギラと脂の乗った絶妙で軽快なトークと、テンションMAXの身のこなしで場を盛り上げ、ついでに魚も釣り上げる!!その当時、芸能の「げ」の字も知らない新米の私にとっては、この現場でのスイッチの切り替えのメリハリと、「職人=プロ」として仕事へ取り組む姿勢の凄まじさに圧倒されたのだった。
なんとなく「好きなことを仕事に…」と考えていた私にとって、オン・オフを見事に切り替え、仕事は結果だと言わんばかりに情熱を注ぐこの大物タレントさんの姿は、私の後の仕事へのスタイルに影響を与え、一発で結果を出さなくてはならない生の取材現場の厳しさを教えてくれた気がする。非常に貴重な出来事であった。
さて、「取材は結果が全て」ではあるものの、なかなか自然相手に安定して結果を出すことは難しい…。過去のコラムでもさまざまな現場やシチュエーションでのプレッシャーをお伝えしてきたが、釣りと直接関係無いところでも少々苦労を経験している。
以前は比較的「陸っぱり」の取材が多かったのだが、最近では船釣りの取材を多く経験するようになった。陸っぱりの取材は時間も長く、朝の日の出前から日が暮れてからもずーっと竿を振り続けることは日常茶飯事。そんな長時間も20代後半~30代前半まではなんとも無かったのだが、一眼レフカメラと釣り道具を抱えてではやはり加齢にはかなわず、腰の痛みを抱えていった。
船釣りの取材が増えてきた最近、昔ほどは長時間拘束されることは少なくなったが、今度は船の揺れが中年の身体に追い討ちを掛ける(笑)。腰痛に加えて、年々足腰も辛くなり、挙句の果てに船酔いに負けるようにもなってきた。船酔いになった際、「きっと、たまたまの体調不良だろう」と、気にしないようにしていたのだが、元々船酔いをしない私が前日の晩の食事に気を遣うようになり、十分な睡眠を求めるようになったのは、明らかに年をとってしまったがための結果のような気がしてならない。
また、半夜や夜通しの取材の後、安全第一で家路へと車を走らせるのだが、全くもって距離が稼げない…。無理をして事故を起こすのは大人として絶対に許されないため、道の駅やサービスエリアで休みながら帰るのだが、以前よりも休憩の回数はことごとく増えている。当然、一緒に行ってくれる同僚や後輩がいれば運転も交代できるし、場合によっては助手席で爆睡(申し訳ない…)させてもらえるのだが、一人のときはそうもいかない。一度、「チョッと休憩」とサービスエリアに滑り込んだのだが、気がつけばサンサンと照り輝く朝日に目を覚まし、ビックリしたことがあった。
(ちなみに、安全のために取材後に宿泊させていただくこともありますので、いつものコトではございません…。)
「ビックリ!」と言えば、何が釣れるか分からないという、釣り本来の面白さもたまに味わうことがあった…。
ある季節のアジング取材の折、当社のアジ・メバル用のジグヘッドとワームを使って釣りをしていたのだが、少々取材時期がタイミングを外していたことや、プロモーションしたいエリアの制限から、状況は厳しく、キャストを繰り返してもアタリの無い夜を過ごしていた。数匹のアジを釣り上げたが、満足のいく匹数とは言えず、ただ無言でプロスタッフとともに釣りを続けていたところ、「ゴンっ!」と明確なアタリ。手元に伝わるそのアタリの感覚と、非常に強い引きから、大物であることは間違いない。常夜灯も乏しい暗がりのため上がってくるまでアジかどうかが分からなかったが、ずっと狙っていただけに頭の中は「良いサイズのアジだ」と喜びで一杯だった。緊張しながら丁寧に足元まで寄せてくると、薄っすらと暗がりに見える魚体の様子がおかしい。なんだか細長いのだ…。抜き上げてからも一瞬何の魚か分からない状況だったが、ヘッドライトを当ててみると、何と巨ギスだった!! チョイ投げ釣りでも見たことが無いようなその魚体の大きさは30cmもあろうかというサイズ。私の中で人生初となる巨ギスを、アジ用ワームで釣ってしまったという、何だか喜んで良いのかどうか、微妙な珍客だった。
そして、これも驚いたというか笑ってしまった一幕を…。あるメバリング取材で、良型の春メバルが釣れるという情報を元に堤防を訪れた。そのポイントは中々の有名ポイントであったが、その日は幸いにも先行者がおらず貸し切り状態。目の前には立派な背の高い藻場が広がり、藻場の上を上手に通せば、良型のメバルが飛び出してくるとのコト。水の中は見えないが、ラインと竿先の感触を頼りに、丁寧にワームを通していった。メバルは潮のタイミングでスイッチが入るようで、しばらくしてから時合いが上手く訪れた。初めは良型がポツリポツリと釣れる程度だったが、次第に我々は一投一釣でアタリを捉えるまでとなり、狂喜乱舞しながら、良型のメバルをテンポよく釣っていくことができたのだった。
しかし残念なことに、程なくして予想もしていなかった土砂降りに! 雨は一向に止む気配も無く、折角の時合いを諦めざるを得ないほどの強さに。致し方なく一旦取材を中断し、車の中で待機することになったのだ。ところがである…。一緒に来ていたカメラマンが、何を思ったのか前も見えないほどの土砂降りの中、竿を片手に堤防を駆け上がっていく姿を、我々は車の中から目撃したのだ!!レインウエアも意味が無いほどの土砂降りの中を走っていく姿を見た我々は、カメラマンが気が触れたのでは無いかと互いに顔を見合わせたほど。
後から聞くと、実はこのカメラマン、「大の釣り好き<釣りバカ」であり、我々の釣る良型メバルを見て、いても立ってもいられなかったそうだ(笑)。土砂降りによる取材一時中断をチャンスとばかりに、車に常備していた竿を手に、飛び出して行ったのだそうだ。しかし可愛そうなことに、時合いは雨とともに終了し、残念ながらノーフィッシュではあったが…。
とまぁ、語り出せばさまざま取材の思い出は尽きることがない。いつも感じることだが、かなり世間様と比べると特殊なお仕事であることは間違いなく、それ故に普通の方が体験できないような出来事にも遭遇している。その時にはユーモラスな、時には衝撃的な、時には感動的な、そして時には情熱的な出来事を経験させてもらえる現場は、私にとって多くの「学びの場」であるような気がする。
元気な身体がいつまで続くかは分からないが、これからも色々な方に出会い、場所を訪れながら、出来るだけ楽しく取材をこなせていければと言った具合だ。
いよいよ始まる取材シーズン。これからも頑張っていきますので、どうぞお付合い下さい。
※本文は都合により脚色を交えております。ご了承下さい。