波間に浮かぶ木ぎれにひらめいて……
ハリとイトで始まった魚釣りの仕掛がオモリの登場でレベルアップしたことは第1回の項でお伝えしたとおり、風や波、流れという自然条件に対しハリとイトだけで不安定だった仕掛に、どっしりとした安定感をもたらしたオモリの功績は大きい。ところが仕掛を重くすればするほど、オモリを使えば使うほど、魚がねらえる層は底もしくは底近くになってしまう。では海面近くや宙層にいる魚たちを釣るにはどうしたらよいか?
ハリとイトだけでも可能な場合もあるが、仕掛の安定という意味ではハリとイトだけでは厳しい場合が多いのだ。ここで釣りザオの登場がいつのころなのか?という問題が仕掛の進歩を語る上で必要なのはいうまでもないのだが、あえて釣りザオの存在を無視して話を進めていくことにする。
仕掛の重量を増し水中に安定して沈めるオモリに対し、仕掛けを安定して浮かせ釣るために考えられたものがウキだろう。最初のオモリが石っころを仕掛に取り付けたものだったように、最も原始的なウキというのは水面に浮かぶ木ぎれなどを仕掛にくくりつけたものだったに違いない。目の前にプカプカ浮かぶ木ぎれを見て太古の人々が「これだ!」と、ひらめいたシーンを想像するにやさしい。
イトの途中に木ぎれを介することでハリを浮かせることができるし、木ぎれからハリまでの長さを変えることで、ねらえる層も変化させられる。「ウキ下」という概念の誕生だ。また石ほどではないものの、木ぎれの重さを利用すれば仕掛を遠くまで投げ込むこともできる。さらに木ぎれを流れに乗せれば、投げただけでは届かない遠方まで仕掛を届けることができるのだ。また太古の人が気付いていたかは分からないが、水面に浮かぶ木ぎれが波に揺られれば当然、その下につながれたハリの部分、エサもゆらゆら上下するので「誘い」という効果も期待できる。
ウキの進歩は仕掛の進化でもある
このようにして生まれたと想像できるウキは時代を経て、視認性、感度、浮力、諸機能を追求していくなかで形状、素材、重量、大きさ、色など、すべての面において工夫、改良が加えられ現在のような多種多様なスタイルにまで発達したのだ。
見えやすくするにはウキの形状を加工し海面上にニョキっと突きだせばよいし、黄色や赤など見えやすい色を塗ればよい。感度をよくしようと思えば、まずは形状を小さくすればよいし、それで浮力が足りなければ、より比重の小さい素材を使えばよい。軽すぎて遠くに飛ばせないなら逆に形状を大きくするか重い素材を使えばよい。さらにはウキ本体にオモリを仕込むという構造も見いだされた。イトにウキをどう取り付けるかということも工夫のしどころであったに違いない。
当然、ウキを使う場合に使用する仕掛も進化を遂げることになる。ハリとイトに木ぎれを取り付けた単純な構造でスタートしたウキ釣り仕掛は、オモリを導入することで、その機能は飛躍的に拡大する。また、その仕掛をより効果的に使えるようにウキに求められる要因がフィードバックする。つまりウキも仕掛の一部である以上、仕掛の進化と切り離して考えることはできないのである。現在ではウキ釣り専用のハリが数多くあるほどなのだ。
現在のウキ釣りはバラエティーに富む。さまざまな場面でウキ釣りというスタイルは利用されているのだ。
淡水なら子供のころに小川でフナやハヤをねらったごく簡単なものから、高度な釣り技術を競うヘラブナ釣りまで。海では防波堤の小物五目釣り、アジの1本釣り、サビキ仕掛けを投げて沖の宙層を釣る遠投サビキ釣り、防波堤や磯からチヌやグレをねらうウキフカセ釣り、カゴ釣りなど。
ルアーフィッシングではライトゲームのフロートリグだ。船釣りでもアンカーを入れて釣る場合はウキを付けた仕掛けを流す場合がある。ウキの発明が釣りを、よりバラエティー豊かなものにしたことは間違いないのだ。