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周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第9回は、地方によって釣りの対象魚としての地位や価値観がまるで違う魚たちを思い出すかぎり紹介しよう。
その昔、東西で顕著だった
グレとチヌの価値観の差
あくまでも関西人としての個人的な記憶と感想なのだが、その昔、磯釣りの対象魚としてグレ(メジナ)とチヌ(クロダイ)の価値観は、東西の釣り人では正反対だったような気がする。現在では磯釣りのなかでもフカセ釣りを代表とする上物(うわもの)釣りのターゲットとして人気を二分する両魚種だが、かつて東ではクロダイ優位、西ではグレ優位だったように思う。
その理由として、西では大阪湾をはじめ都市部近郊のいたるところでチヌはたくさん釣れたが、グレは和歌山県や徳島県など太平洋岸の外海まで脚を伸ばさないと、なかなか思うような釣果にありつけなかったから。そして、東では三浦半島や房総エリアなど首都圏から比較的近いエリアでメジナはよく釣れた(のだと思う)が、東京湾内をはじめ近郊の磯でクロダイを釣るには、かなりの経験と技量が必要とされた(個体数が少なかった?)からだと記憶している。
内臓の臭みさえなければ……
身の味は抜群のアイゴ
同じ磯釣りの対象魚で地方により価値観が違う魚はまだまだ多い。たとえばアイゴ。ヒレには毒棘があり、独特のアンモニア臭を放つ内臓のせいで好みは大きく分かれる。毒棘は釣り上げてすぐ散髪するようにハサミでカットしてしてしまえば問題ないが、「あの内臓臭はどうも……」と敬遠する人は多い。
そんなアイゴを好んで釣るのは和歌山県南部の釣り人。「酒かす」を小豆大に丸めてハリ先にちょこんと刺して、ウキ釣りでねらう独特のスタイルが古くから田辺エリア周辺で盛んだし、とくに手の平サイズまでの小型をバリコと呼んで珍重する。
四国では徳島県の釣り人もアイゴは嫌いではないようで、グレ釣りのゲストには違いないが釣り上げたら丁寧に持ち帰っている。余談だが徳島の釣り人に聞いた話では、梅雨時期に四国西部の宇和海で釣れる良型のアイゴはまるで臭みがなく抜群に美味しいのだとか。ということは、徳島でも多少は磯臭さが気になる魚だという認識ではあるものの、それ以上に身は美味しいということをよくご存じということだろう。
九州でもアイゴを大小区別せず「バリ」と呼び、古くから人気ターゲットになっている。
アイゴ同様に和歌山県南部では昔からイガミ(ブダイ)やイズスミ(イスズミ)釣りが盛んだった。ともに冬場は海藻食で内臓のニオイが気になる魚だが、なぜか京阪神あたりから南紀方面に釣りに行く人には人気がなかった。とくに近年はその傾向がより顕著になっているように感じる。
見た目がネック!?
実はおいしいウツボ
イシダイ釣りの邪魔をするウツボも多くの人は即リリースだが、九州では好んで持ち帰る人がいる。かなり以前だが長崎県の男女群島の磯で、ハリに掛かったウツボを何尾もドンゴロス袋に入れて持ち帰る福岡の人と知り合った。どうやって食べるのかは忘れてしまったが……。
たとえば和歌山ではウツボの干物、高知ではウツボのタタキが有名で、その外見からは想像できない身の美味しさは間違いない。しかし敬遠する人にとっては、とにもかくにもヌルヌルした体表に恐ろしい顔など、見た目と料理の難しさ(小骨が多い)がネックになっているのだろう。
出典:写真AC
キュウセンにヒイラギ……
食べず嫌いだけなのかも?
ベラ(キュウセン)も地方で好みの差が激しい。関西にかぎった話をすると大阪の人はベラをまったく食べず完全な邪魔もの扱いなのに対し、兵庫県の明石市あたりから西の人(瀬戸内海全般で好まれるようだ)は好んでベラを食べる。素焼きや素揚げにしたベラを南蛮漬けにすると、なかなか美味しい。
そのほか、全国的には人気がないが、ある地方では意外な人気を誇る魚も多い。体表の粘膜が特徴でキスの投げ釣りなどで邪魔をするヒイラギを高知では「ニロギ」と呼び好んで食べる。高知市の浦戸湾では秋口のニロギ釣りが有名だ。ニロギは唐揚げ、塩焼き、お吸い物など何でも美味しいらしい。
出典:写真AC
グレ釣りなどでほぼ全国的にエサ取り扱いのスズメダイは九州北部ではその干物が「アブッテカモ」という名前で売られ名物になっているほどで、これも食わず嫌いの典型的な例だろう。
地方や季節によってその味に差はあるかもしれないが、同じ魚でそれだけ好みが分かれるというのは、日本にはそれ以上に「美味しい(釣りたい)魚が多くいる」といことの裏返しなのだろう。