From HEAT the WEB DIRECTOR プロの世界はキビシ~い!
釣りプロの見えないプレッシャーとは?

釣りプロの世界_text-photo岳原雅浩

「大好きな釣りをしてご飯が食べれるなんて、素敵っ!」
「TVや雑誌に出れて、楽しく釣りができるなんてワンダフォー!!」
各メディアで活躍しているプロアングラー、いわゆる「釣りプロ」を見て、みなさんはこんな思いを抱いたことはないだろうか?

釣りは果たして華やかな世界?

趣味や玩具、スポーツなどのレジャー産業は、それがビジネスだとはいえ、はたから見ると楽しげで華やかなエンターテインメントであることは間違いない。趣味やレクリエーションの延長が仕事だなんて、さぞ楽しいことばかり…。果たしてそうだろうか? いえいえ実は、メディアに登場するプロアングラーやレポーターのお兄さん、お姉さんたちには、「釣る」という結果を求められるがゆえの、並々ならぬ苦労があるのだ。

釣りの取材って釣ればいいんでしょ?

ロッドを持つ手元

おおよそ早朝からスタートする釣り取材。普段プライベートでの釣りや、まれにある好条件下での釣りでは、大して気にせずとも釣れるお魚たち。なのに、取材のときに限ってなかなか釣れないことは多い。

早朝の漁港風景

複数人のスタッフとの日程調整や限られたスケジュールのなかで執り行われる取材は、一発勝負であることがほとんど。早朝から日暮れまで、はたまた深夜までに、何とか満足のいく結果を出さなくてはならないのだ。しかも、記事を掲載する時期や、映像を放映するタイミングを考慮し、比較的ハイシーズンよりも前に取材をすることが多く、また、先の日程の都合で、天候を選ぶことができない。なかなかベストな条件をそろえることは難しいのだ。

取材風景

それでも、プロアングラーやレポーターの方は、常ににこやかに笑顔を振りまき、そして、何食わぬ余裕の面持ちで取材に挑んでくれている。取材中も常に竿を出し、釣りに集中できるかといえばそうではない。釣り方や商品の説明をし、雑談や状況説明も織り交ぜながら進行しなければならないうえ、カメラさんや音声さんのセッティングで釣りが中断することもある。1日のなかでの正味の釣りの時間は限られているのだ。

そこに魚はいる!
でも釣れないことって、あるよね~

船からの水平線風景

以前、ある取材で季節的にもエリア的にも1級のポイントに船長が連れて行ってくれ、満を持して魚を狙ったことがあった。当然、プロアングラーは立派な釣果をたたき出し面目躍如。ホッと胸をなでおろした(同船した裏方の私も同様)のだが、当取材の趣旨としては、番組レポーターのお姉さんに釣り方をレクチャーし、大物を釣っていただくもの。「魚はいる! 大物もいる!! あとは釣ってもらうだけ!!!」と、スタッフ全員が期待をつのらせるものの、お姉さんはなかなか釣れない…。道具の問題か、テクニックの問題か、潮のタイミングか…、原因は諸々あるだろうが釣れない…。

船釣り風景

途中何度かそれらしきアタリもあり、船中が活気づくもののハリ掛かりまでとはいかず、徐々にお姉さんの表情も沈んでいく。プロアングラーも気を遣い、的確に指示を飛ばしていき、また船長もこまめに船のラインを取り直す。しかしそれがなお一層、釣れないことへのプレッシャーに変わってしまうことを周囲も感じ取っていた。

魚の釣果

結局最後には、とうとう悔し涙を流しなら根性で耐えていたお姉さん。がっ! 最後の最後で小振りながらも本命のアタリをとらえ、無事にターゲットの魚をゲット!! 本人はうれし涙、スタッフは貰い涙で、冷静に考えると「そこまでのことか?」と思いつつも、船中は拍手喝采! 互いに抱き合いながら感動の海に包まれたのであった。

釣れないとき、プロアングラーの心境は?

釣り人の後ろ姿

またある取材では、これまで好調だったプロアングラーが、まさかの連チャン貧果。全力で取材にトライしていただいたにも関わらず…ということがあった。

状況が悪かったのか、魚へのアプローチの仕方がまずかったのか、その全てのロジックに問題があったのか…。これまた真相はわからないのだが、自然相手の釣りであるがゆえ、こんなこともザラにある。しかし、プロアングラーとしては納得がいかない。メーカーからの商品プロモーションという使命を任され、取材に経費や時間もかかっている。現場をディレクションしている担当の私以上に、そのことを真摯に受け止め悔やむ姿がそこにはあった。

車中

取材終わりの帰りの車中。その悔しい思いと、普段のプロらしからぬ弱気な姿、そして何よりも期待に応えることができなかったプロとしてのプライドからの反省。宿泊するホテルまでの道のり約2時間半にわたって、車内大反省会となったのである。

だからプロには頭が上がりません

プロアングラー

結局のところ、「釣り取材は楽じゃない!」「プロアングラーやレポーターさんは凄いプレッシャーを受けている!」ということ。
「ただ楽しく釣ればイイ」「釣れなくても再取材があるんでしょ?」な~んてことではなく(そんな取材もたまにありますが)、望む釣果や、仮に貧果でも納得のいくストーリーを残すために、みなさんお仕事として情熱をもって、真剣に取り組んでくださっているのだ。そこには、われわれが計り知れないほどの、もの凄い重圧があるのだと想像でき、常々プロには頭が上がらない。

 

釣り取材とは実はこのような感じ。表には見えてこない心理的プレッシャーに耐え、あるときは限界を打ち破る強い心で、あるときは自然相手に柔軟で謙虚に、現場の状況や魚と対峙する。それが「釣りプロ」のようだ。

釣りはほのぼの…

私はというと…、残念ながらそのような強いハートは持ち合わせていない。いつもできるだけノ~ンビリと釣りを楽しませていただいている(笑)。申し訳ない…。現場でのお仕事は別だが、今後もできるだけプライベートな感覚で釣りに接したいと(勝手ながら)願うばかりだ。

 

※本文は都合により脚色を交えております。ご了承下さい。