学校で話したくなるお魚雑学 No.4 産卵期、神秘的に体色を変える魚をご紹介

まだまだ残暑も残りますが、日に日に秋の気配が漂ってくるこの頃です。秋になると色づくのはイチョウやカエデなどの黄葉・紅葉ですが、水の中では秋に産卵を行うサケやマスの仲間たちが、「婚姻色」に身体を染め上げています。

そんななか、今回は、真紅に染まるヒメマスのお話をしたいと思います。

ヒメマス
ヒメマスです 左がオスで右がメスです
若いときのヒメマス
こちらは若いときのヒメマスです

湖に棲むヒメマスは、サケやカラフトマスが海から産卵遡上するように、繁殖期の秋になると湖から川へと多勢溯上します そしてメスは砂利底に産卵床を掘って卵を産む準備をするわけですが、その際、オスたちは産卵床を掘るメスの下流側で「我こそは……」と、そのメスを得るために競い合います。

産卵床を造るヒメマスメス
産卵床を造るメスの下流側にオスがいます

実際に何をするのかと言いますと、多くの場合、より身体の大きなオスが、自分よりも小さなオスを追い回したり嚙みついたりして追い払います。体長に差があれば、それだけで勝負がついてしまいます。
一方、体格が似た者同士の場合、追い回したり嚙みつきあったりもしますが、それと同時に、横に並んで、自分の体格を相手に見せつけ合います。この行動は「ディスプレイ」と呼ばれていますが、ヒメマスの場合は体長もさることながら、オスはグンと盛り上がる背中の高さも互いに誇示し合っているように見えます。そしてたいていは、最も体長が長く、体高のあるオスが、他のオスをねじふせて、メスの近くを陣取り、メスが卵を産む瞬間に横に並んで放精(精子を振りかけること)をします。勝負に負けたオスは、別のメスを探しに去っていくこともありますが、諦めきれずに優位なオスの下流側に陣取り、追い払われながらもなんとかくらいついて、産卵の瞬間に飛び込んで放精を行うこともあります。当然、優位なオスよりも卵に授精させる割合は下がりますが、それでも一部は自分の子孫を残せる、というわけです。

いわゆる「サケ」と呼ばれるシロザケでは、オス同士の勝負に負けたものが、自分の体色をメスの模様に転じて、それ以上、優位なオスから攻撃を受けないようにする行動が観察されています。優位なオスは、〝メス化粧〟したオスには、あまり攻撃を加えないのです。

シロザケのオス
シロザケのオス 身体にピンク色の横じまが入ります
シロザケのメス
こちらはシロザケのメス 身体を横に倒してくねらせ、産卵床を掘っています 黒くて太い一本の縦じまが特徴です(魚の場合、頭を上にして吊り下げた状態が「縦」 身体の頭から尻尾にかけて通っているしま模様は「縦じま」となります)

話をヒメマスに戻します。昨年、私はある行動を観察しました。互いに横に並んでディスプレイしているオスの片方(どちらかというと劣性なオス)が、鼻面を上げて水の中で立ち上がるような姿勢を取ったのです。

ヒメマスオス
右側のオスのほうが体高がありますが、左側のオスは、負けじと鼻面を上げているように見えました

この行動の確かな理由は残念ながら不明ですが、私には「体長ではかなわないから、せめて体高を大きく見せたい……」という気持ちの表れのように見えました。何度か試みておりましたが、結果は失敗(?)。残念ながら、メス取り合戦に勝つことはできず、どこかに去っていってしまいました。

サケ・マスにとって、命のクライマックスとも言える繁殖期には、心を動かされる営みが観察できます。イワナやヤマメならばリバータイプの管理釣り場でも産卵行動を観察できることもありますので、追いかけ合っている魚がいたら、静かに観察してみてくださいね。

レポーターREPORTOR

若林 輝
プロフィール:若林 輝
海川湖問わずあらゆる釣りを楽しむ、釣り雑誌記者&編集者。編集プロダクション「リバーウォーク(http://river-walk.co.jp)」代表。