FISHY COLUMN ワカサギ

これまで約1年に渡り、その季節に釣りたい魚として、それぞれの釣り方などを、どちらかというと幅広く、「釣ってみようかな?」と、まだ釣ったことない魚にも興味を持ってもらえたら、という様な趣向で毎月紹介してきた。
しかし、実はHEATの担当としては、もう少し突っ込んだ内容を深く掘り下げたいという欲が出てきたのも事実。そして担当と同じようにHEAT読者の皆様も「ちょっともの足りないから、もう少し知りたいな」と、知識欲に徐々に火が付いてきていると勝手に仮定して、今回からはFishy Columnと題し、釣り方や道具だけに捉われない「お魚のハナシ」をしていきたいと思いう。普段当たり前の様に釣ったり食べたりしてきた魚にも、まだまだ釣り人の知らない一面があるのかもしれないからだ。

冬といえば、氷の上に並んだワカサギの姿?

秋が深まり、冬の気配を感じ始めた頃からチラホラと釣果の情報が入り始め、厳冬期に本格的なシーズンを迎えるワカサギ釣りだが、ワカサギという魚の認識のされ方は、それぞれの地方によってかなり違いがある事がわかった。
関東をはじめ、一般的にはワカサギ釣りと聞いて先ず思い浮かべるのは、凍った湖に穴を開けて、そこから仕掛を垂らすという氷上ワカサギ釣りだったりするらしい。しかし、弊社は本社が兵庫県にあるという事もあり、ワカサギと聞いて思い浮かべるの佐仲ダムや余呉湖などで、桟橋から延べ竿に糸を垂らして釣るイメージの強い社員が多かった。
その他にもドーム船と呼ばれる、まるで室内にいるかの様な設備の船で湖上へ出て釣るというものも、レジャーとして非常に人気が高い。

川釣り

また、平野部の湖や川など、決して透明度の高くない場所でもワカサギは生息している。季節や産卵のタイミングなどで、付き場は変わっていくようだが、1年中釣れる魚だ。
しかしワカサギが特別なのは、見た目の美しさだけでなくその味にある。釣り人でも、海で釣れた魚はよく食べるが、淡水魚はあまり口にしないという方も多いのではないだろうか?そんな中でもワカサギは、アユやウナギと並んで、かなり一般的に食される魚でもある。

漢字で「公魚」とも書くワカサギ、かつては時の徳川将軍に、年貢として霞ヶ浦で獲れたワカサギを納めており、公儀御用魚とされていた。それぐらい、古くから親しまれてきた食用魚なのだ。
以前泥水の様な水路で、タナゴなどに混じって釣れた時は、嬉しくも腑に落ちないような、不思議な感覚だったのを覚えている。

ワカサギ料理

“住めば都”な広い分布域

日本各地の湖沼に広く見られるワカサギだが、もともと生息していた場所は日本海側は島根県以北より北海道、太平洋側も千葉・茨城県以北で、海外でもロシア、アメリカなど、基本的には冷水性の魚である。しかし水質の悪化や水温変化、塩分濃度などに対し、かなり広い適応力があり、食の需要も高かったことから、日本各地に放流され定着したとされている。初めて霞ヶ浦のワカサギを山中湖や諏訪湖への移植が始まったのは、もう100年近く前のことだそうだ。現在でも全国各地の湖沼で漁獲、採卵も行われ放流事業が盛んである。

ワカサギ

マスやサケの様に、回遊域を海まで伸ばす遡河回遊型と、一生淡水で生活する陸封型の両方が存在するとされていて、その両方が混在している地域もある。以前ヨーロッパの釣り人が、「縄張り争いに負けて、そのまま河を追い出され海に降りたブラウントラウトが、その仕返しとばかりに、もっと大きくなって帰ってきた姿がシートラウトだ」という話を耳にしたことがあるが、実際のところはどうなのだろうか。少なくとも大きな群れで行動しているワカサギは、縄張り争いとは無縁に見える。
興味深いのは、産卵を終えると通常1年で死んでしまう魚なのだが、北海道や長野県などの寒冷な場所では数年間生き続ける魚もいるらしい。さぞ食べ応えがありそうである。

ベイトフィッシュ日本代表

トラウト

ワカサギ釣りを楽しむファンが多い一方で、ブラックバスやトラウトをルアーやフライで狙う釣り人にとっては、ワカサギはベイトフィッシュとしてもよく知られているのではないだろうか。
海外でも AYU と並び、WAKASAGI も人気カラーの代表格である。
どうしてアユが欧米でもよく釣れる(もしくは人気が高い)のかどうかは分からないが、ロシアやアメリカにもいるワカサギならそれも頷ける。ちなみに小さく美しいワカサギも立派な肉食性の魚であり、プランクトンだけでなく他の魚の稚魚や魚卵を捕食している。筆者の勝手なイメージでは、海のイワシの様な立ち位置なのではないかと考えている。複雑な気持ちの方もおられるかもしれないが、ワカサギの放流に力を入れている場所では、大きなブラックバスやニジマスなどがよく上がったりもする。

ワカサギ列車

良型の津風呂ワカサギ
良型の津風呂ワカサギ

昭和40年代には近畿地方のワカサギ釣り場の代表格だった奈良県にある津風呂湖。しかし段々と釣り人の数は減っていき、昭和50年代以降ワカサギを釣りに来る人の足はほぼ途絶えてしまっていた。
しかし津風呂湖の観光協会、漁協の合同組合が地域活性化のために、平成15年から様々な方法でワカサギの放流を始めた。その努力が実を結び、2013年に数十年ぶりにワカサギ釣りの復活した津風呂湖は、人気のワカサギスポットとして注目されている。多くのワカサギファンで賑わい、以前近鉄が「ワカサギ列車」を運行する程だった活気のある姿を津風呂湖は取り戻そうとしているのだ。これには少々、いやかなりの地元贔屓があるが、長い間釣り鈎と仕掛を作り続けてきた我々ハヤブサも大きな期待を寄せている。

津風呂湖桟橋

大阪にもほど近く、訪れた観光客や釣り人にも優しく施設整備された津風呂湖は、どうやらワカサギにも優しい環境のようで、時にはメガワカサギと呼ばれる15cm超えの大型が釣られることもあるという。
何より、氷上やドーム船だけでなく”桟橋からワカサギを釣る”という、昔は当たり前だった光景がまた湖に帰ってくるというだけで、どこか励まされるにも近い喜びがある。ワカサギには、いや、釣りや魚にはそんな人を元気にする力があるのだと感じずにはいられないのだ。