From HEAT the WEB DIRECTOR Behind the stage
~理想の現実のあいだで揺れる、開発の夢と情熱~ part.2

開発において「失敗」や「苦労」は日常で、日々のほとんどが失敗の連続といっても大げさでは無い。仕事におけるミスは極力減らし、効率良く仕事をこなしていく事は社会人として当然ではあるが、何が成功か分からない開発においてはその様に一般的な感覚で推し量ることは出来ない。さて今回も、前号に引き続き開発の裏側ストーリーにお付き合いいただきたいと思う。

旅の思い出

真面目な話としては、幾ら高機能・高付加価値とは言っても、「原価と売価」の設定は難しく、お客様に喜んで頂ける価格設定に悩む事も多いし、企画したプロトの実釣テストで何も結果が出ず、「机上の空論」に終わる事も多い。
また、実釣テストは2日連続、3日連続が当たり前。始めは気軽にスタートしても、反復でのテストとなるため徐々に苦痛となり、正直身体も辛くなってしまう。
テストの際、(例えダメな結果であっても)何か結果が出てくれると次への改善の糸口となるそうだが、全く反応が出ない場合や、逆に釣れ過ぎて環境要因なのか、製品が良いのかがボケてしまうこともあるそうだ。
いずれにしても開発に「失敗」や「苦労」はつきもの。開発担当にとっては既に今では「良き旅の思い出」となったエピソードもあるそうなので、少しご紹介を。

悪天候

日帰りで石川県某所を予定しイイダコ製品の開発テストに出かけたAさん。〆切りもあり、天気は危ういもののぎりぎりセーフだろうと覚悟を決め現場へ。しかし、残念ながら到着すると釣りどころでは無いほど海はババ荒れ。。。テスト釣行はものの見事にスベッてしまった。
こんな事もあるだろうと用意していた第2プランを実行すべく別の場所へ移動。ロックフィッシュ製品のテストに切り替えたのだが、現場到着まで4時間もかかる長距離ドライブとなった。
非効率ではあったが、釣りモノによって季節、場所が限定されるのが釣りの辛いところ。狙った魚を探すのも一苦労なのです。

開発室

また、開発において、一発で企画や形状が決まるものもあるが、大半が何度も繰り返すプロト製作。一回ケチが付くと、悩みながら何度もプロト製作が続くことは良くある。すなわち、出だしの企画やひらめきに大きく左右され、出だしをしくじると、じわじわと正解に寄せていく他無い。そんな中、野外でのテスト故に恥ずかしい思いを経験したBさんのお話も。
ライトな感覚で扱えるメタルジグ「ジャックアイ」の開発は大いに悩みぬいた。動きにこだわり、ロングタイプもスロータイプも10~15回とテスト及びプロト製作を繰り返した。初期企画から発売まで2年もの歳月が掛かり、兵庫や高知、その他、様々な場所でテストを行った。ある時は動きを見るためだけに、対象魚の居ない神戸の港で、ごっついジギングロッドを使って動きのテストも行った。釣り人から「兄ちゃんそんなごっつい竿で何が釣れんの?」と声を掛けられて、何とも答えられずタジタジに。。。また、ひたすら近所の空地でメタルジグを上に投げ続けるテストも。機械では計り知れない不測のシチュエーションを想定しての強度テストなのだが、通行中のおじさんからズット怪訝な顔つきで見つめられていた。恐らく妖しい変態集団に見られていたのではないだろうか。。。

こうした様々な苦労の末、生み出され、ユーザーの皆さんにご使用頂く新製品。苦労が多い分、喜びや面白さも多いと、開発担当の面々は皆、口をそろえて言う。
鈎の開発では、鈎の硬さ・形状がサンプル製作時に毎回微妙に変わるのだが、アナログに対応しているので多少は致し方なく、都度微調整の繰り返し。その様な状況の中では、プロが求める品質に近づける難しさがある。機械技術に頼れない手作り、まさに職人の世界であり、非常にマクロな世界なのだ。時にプロスタッフからは、誤差の範囲内での要望が出てくる事もあるが、そのギリギリの中で高い要望に応えるのは、「暗闇で針の穴に糸を通す」様な難しさがある反面、成し得たときの満足や喜びは一入(ひとしお)だ。
そして何より、店頭で当社製品が多いに売れた時、また、手に取ってくださった方が魚を無事釣られ、評価を頂いた時(雑誌やBLOGでマメにチェックしているそう・・・)には、格別の喜びと安堵感に包まれ、「開発で苦労して良かった!」と素直に喜べる。その瞬間こそが開発冥利に尽きる瞬間だそうだ。

社内インタビューの最後に、今後「開発担当として目指したい姿や目標」について聞いてみた。日頃から気さくで、賑やかな彼ら開発担当の面々だが、少し照れくさそうに語ってくれた。
便利さや面白さを含め、「良い品質をより安く」はよく言われる話であり、僕らにとっても当然。そして、釣具メーカーとしてのオリジナリティ(行き過ぎは禁物だが)を追求し、世間をアッと言わせ、差別化を図る事も当然だと思っています。でも何より、僕らが大切にしているのは「釣れる」と言うこと。
ユーザー様に「釣れる」「釣れた」と言う、釣りの一番の醍醐味を体験して頂くために我々は有り、ユーザー様同様に釣りが大好きだからこそ、細部までこだわり続けることが出来る。「好きこそものの上手なれ」を体現すべく、ずっと釣りが好きであれば、品質も価格もアイデアも「釣れる」に繋がる。そういった気持ちを持ち続ける姿勢を維持したいとのことだった。

根底に「釣りが大好きである」という気持ちを持つのは、開発担当共通の感覚のよう。そして、日々「釣れる」ことを考え、それを仕事に出来ている開発担当含め我々は、多大な報酬や賞賛は無いものの、世の釣り人よりもやや恵まれている環境に居るのかもしれない。終始和やかに、そしてフランクに話を聞くことが出来た今回。是非メンバーにはまた違った角度で話を聞いてみたいと感じ、新鮮な気持ちになった自分であった。時折子供の様な顔をしながら語る表情には夢があり、少々身内贔屓になってしまうかもしれないが、素晴らしいメンバーに恵まれていると誇らしげにすら感じるのである。

※本文は都合により脚色を交えております。また、個人的な主観で執筆しております。ご了承下さい。